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娼婦とその客

 このゲームは18歳未満お断りです。

 基本無料版のプレイヤーである冒険者は基本的に死んだら死ぬ(キャラクターをロストする)仕様です。

 キャラクターをロストした場合、次はLV1からのスタートとなります。

 ほぼ全てのNPCに不死という特性がつけられているので、NPCは基本的に死んでも10日以内に復活します。

 俺は村の子供だ。


 なので、村の中で起こる出来事については割と知っている方だと思う。


 運営……じゃなかった、神からも時々お告げが届くしな。

 自分を殺した犯人については不明のままで終わることも多いが、その他のイベント関連については任せてくれと言いたいくらいに結構よく知っている。


 駆け出しの冒険者ばかりが集まる、日頃は娼婦なんていないこの村に、今は流れの娼婦が来ていることも知っている。



 娼婦の名前は不明だが、異名は心は漢の男の娘──。


 どう考えてもこの娼婦の性別は男だ、心も体も男だ。

 たぶん、見た目が可愛いだけの男だ。


「俺なら買わないな」

 とうそぶいてみるが、より正確に言うなら俺には買えないのだ。


 金がないってのもあるが……。

 俺は村の子供で、神が気まぐれを起こさない限りは、これからも永遠に子供だからな。


 大金をはたいて買ってみたところで、何ができるという話だ。



 しかし、もう夜か。


 腹が減った俺はカカシのところの畑によってサツマイモを掘り起こし、牧場の端に生えているベリーの樹から3粒ほど失敬してみた。


「うまいな」


 ラズベリーとブルーベリーと思われる赤、青のベリーはうまい。

 ブラックベリーと思われる黒のベリーは少しすっぱいが、それでも普通にうまいと思える。

 だが、畑から掘り出しただけのサツマイモ……お前はダメだ。

 全身をくまなく洗って、焼き芋かスイートポテトにでもなって出直して来いと言いたい。


「いい加減、料理のスキルが欲しいな……」

 と呟いてみるが、村の子供にスキルが生えたという話は聞かない。

 レベルが上がったという話も聞かない。


 料理スキルを手に入れられたところで、調理器具を手に入れられるのはいつだろうという疑問もある。


「寝るか」


 こんな時は寝るに限る。



 畑のそばにある、藁がたくさん納められた納屋の中でゆっくり休むつもりだった俺は、そこへ向かう途中で先を行く2人連れがあることに気が付いた。

 その影は2つとも女なのだが、2人の距離が妙に近い。


 嫌な予感が脳裏をよぎる。


「ふふっ、もう少し暗い所に行きましょうか?」


 この先にある、暗い場所……俺が行こうとしていた納屋だな。

 ならば、この2人連れは娼婦とその客──たぶん金を持っていない駆け出しの冒険者──かと俺はため息を吐く。


「宿屋に連れ込む金がないなら我慢しろよ、貧乏冒険者が」

 と俺は言いたいが……まあその辺は冒険者の勝手か。


 この世界で娼婦を名乗れるだけあって、娼婦の方はかなりの美女(※ただし♂)だしな。


 これを逃すと次の機会は早々にないことくらい、駆け出しの冒険者だって、噂かなんかで聞いて知ってるだろうし。



 しかし、巻き込まれるこっちの身にもなれよな。

 と俺はため息を吐く。


 娼婦のレベルは、かなり高いらしいぞ?

 (※主に戦闘力的な意味で。)

 ちゃんと満足させられるだけの金、持ってんだろうな?


「ああん、もうせっかちさんね」


 ……持ってるわけないか。

 駆け出しの観光客ならともかく、見るからに駆け出しの冒険者だし。


 娼婦の方も分かってて誘ってるのかな、これ……。



「そうそう、いい子ね」


 とりあえず、ここから離れるか。

 これからここで起こるであろうことを観察する趣味はないしな、と俺は踵を返す。


「いい子にはご褒美をあげましょう」


 エロの部分になら興味がないわけでもないが、問題はその後だ。

 こんな人気のない、暗い所に誘い込まれた金もコネも力も信用もない駆け出しの冒険者の末路なんて、考えなくても分かるだろう?


 娼婦の性別が実は男であるとか、客である冒険者の性別が女であるとか、そんなことは関係ないのだ。

 金が払えない客は、娼婦にとって自分を騙した裏切者──。


 俺はそれに巻き込まれたくない。



「この時間でもプレイヤーがいる場所は……広場か? ヒロハシと一緒にいれば、少しは目立つか? いや、下手に目立つと肉と経験値の塊が2つ一緒にいると思われるか?」


 とにかく俺はここから離れて、アリバイを作らないといけない。



 ──死の直前の記憶を消されるのは、何も村の住人たちだけとは決まっていないのだから。

後日の雑談スレ


544 名前:名無しの冒険者さん

 出張で出かけてる間に村で大量殺人があったらしいんだが


545 名前:名無しの冒険者さん

 駆け出しの連中が金も無いのに娼婦を買って死んだだけだろ自業自得だ

 ちなみに俺も買って死んだらしい


546 名前:名無しの冒険者さん

 俺も買って死んだらしいわ

 記憶に残ってないけど、いつも一緒にいたツレが言ってたから多分合ってる


547 名前:名無しの冒険者さん

 私も買ったよ。あんな綺麗な人リアルじゃお目にかかれないしね。

 お店を出すための資金がきれいさっぱり消えちゃったけど、後悔はない!


548 名前:名無しの冒険者さん

 そんなに良かったのか


549 名前:名無しの冒険者さん

 うん。きれいさっぱり忘れて「俺が娼婦♂を買うはずがない!俺を殺したのは別のNPCだ!」とか叫びながら、課金アイテムを使ってまで手当たり次第にNPCを殺しまくった奴らを哀れだと思うくらいにはね。


550 名前:名無しの冒険者さん

 それは俺でも哀れだと思うぞ


551 名前:名無しの冒険者さん

 おれもおぼえてるぞ


552 名前:名無しの冒険者さん

 おまえもおぼえてんのかよ


553 名前:名無しの冒険者さん

 うんぎりぎり金が足りてな547のお姉ちゃんじゃないがまた金ためようって気になったわ


554 名前:名無しの冒険者さん

 おk、俺もちゃんと貯めるわ。次は女の娼婦が来るかもしれないからな。


555 名前:名無しの冒険者さん

 というか娼婦は普通女だろ


556 名前:名無しの冒険者さん

 とりあえず次は雑貨屋とパン屋と宿屋と武器屋が殺されないことを祈るわ…

 通りすがりの重課金様は今回も長しか復活してくれなかったしな


557 名前:名無しの冒険者さん

 武器屋はまだしも、雑貨屋とパン屋と宿屋が殺されたせいで村周辺の食糧事情が一気に悪化したよな。商売熱心な先行冒険者が戻ってきて露店とか開いてくれてるが……。ぼったくりってわけでもないから文句を言いづらいんだが、もっとランクが低い飯を売ってくれないものか。


558 名前:名無しの冒険者さん

 持ち込んだ食材の質がいいだろうからランクの低い飯を作るのが逆に難しいんだろう


559 名前:名無しの冒険者さん

 しょうがない、久々に村の子供たちでも狩るか


560 名前:名無しの冒険者さん

 やめろ


560 名前:名無しの冒険者さん

 やめとけ


561 名前:名無しの冒険者さん

 あいつら毒草を食ったり毒薬を飲んだりして自分の肉を毒肉に変えることを覚えたからな。レベルの低いやつが食ったらそのまま死ぬぞ?


562 名前:名無しの冒険者さん

 ところでその娼婦はまだ村にいるのか?


563 名前:名無しの冒険者さん

 いあ、通りすがりの観光客が殺したからもういないぞ


564 名前:名無しの冒険者さん

 さすが観光客、さすが重課金様だな

 そっち方面では困ってないだろうし、邪魔だと思ったらさくっと処断するか


565 名前:名無しの冒険者さん

 復活するのは3日後か?


 怒れる娼婦さん♂に手当たり次第に報復されても困るし俺は旅に出るわ

 俺のレベルじゃまだきついんだが、森のボスクマさんよりも怒れる娼婦さん♂が怖すぎる


566 名前:名無しの冒険者さん

 落ち着け、565

 このゲームの娼婦には不死属性がついていないんだ

 あとは分かるな?

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