復活の光剣
強い感情だけで振り下ろされた剣は笹本の迎撃で砕け散った。対抗する手段はなくなったにも関わらず、頼人は柄だけ残った剣を乱暴に振るって攻撃を続けた。
そんな悪足掻きもすぐに終わった。笹本が空を切る剣を難なく躱した後、頼人の胸ぐらを掴み、投げ飛ばした。無様に倒れる頼人を、笹本は眉をひそめて睨んだ。
「どういうことだよ。こんなのが最強の力なのか? はあ、なんか冷めちまったぜ。もういいや、さっさと殺して、別の最強を探しに行くか」
頼人はまた立ち上がって、壊れた剣を構えた。醜態を晒してでも、正義を騙った悪党を裁かなくてはならない。その強い意思が頼人を突き動かしていた。
「やめとけよ。ミジメなだけだぜ」
「惨めでも、なんでもいい……ただ、お前を倒せれば!」
そう、倒せればなんでも良かった、倒すだけの力があれば。力を強く欲したのはこれで二度目だった。嬲られる花凛を助けたいと思った時。あの時の感覚と同じものを今、体の奥から感じた。
柄しかない粘土の剣に亀裂が走った。そしてその亀裂から眩いほどの閃光が迸った。周囲が一瞬、白い光に覆われた後、光が頼人の手に収束していった。
閃光から目を逸らした笹本は再び頼人を見ると、その手に握られている光の剣に目を輝かせた。
「おお、なんだよそれ! それがお前の本当の力か?」
突然のパーソナルの復活だったが、それを喜ぶことも訝しむこともなかった。目の前にいる敵をこの剣で斬る、そのことだけに集中していた。
笹本も失っていた頼人への興味を取り戻していた。頼人の攻撃を待つことなく、自分から接近して先制を取ろうとした。ハンマーを引き摺りながら軽快に走って頼人に近付くと、遠心力を利用してハンマーを振った。
頼人はハンマーの重たい一撃を光の剣で受け止めた。刀身を手で支えながら防ぎ、押し返す。しかし返されても、笹本はすぐに構え直して二撃目を狙ってきた。自らの防御を考慮しない、捨て身の攻撃だ。それならば此方も相手の攻撃を無視して攻めるだけだ、と頼人も剣を両手で握り、剣先を笹本に向けた突撃していった。
両者共に放たれた決死の攻撃は、頼人の一突きが先に刺さった。脇腹を貫通した光の剣は、血も傷も作ることなかったが、笹本はその一撃で振り下ろさんとしていたハンマーを落とし、悶え苦しんだ。
笹本は声にならない叫びを上げながら、その痛みから逃れようと剣を抜こうとした。弱っているのか、引き抜くまでの力が入らないようで抜けずに無駄に足掻くだけだった。頼人は更に深く剣を差し込んだ。笹本の悲鳴は一層、大きくなった。
「この苦痛は、お前が今まで人にやってきたものと同じだ。それから逃げようなんて、許さない」
頼人は笹本を蹴り、無理に剣を抜いてやった。這いつくばる笹本を見下ろし、とどめの一撃を彼の脳天に見舞おうと、剣を振りかぶった。
輝く刃が笹本の目の前まで迫った時、不意に強い風が吹いた。風と共に砂埃が巻き上がり、頼人は思わず目を細めた。
風は次第に強さを増していき、吹き飛ばされるのではと感じるほどだった。しかし、唐突に風は止み、1枚の純白の羽根がひらりと落ちてきた。
羽根は頼人の剣に落ちた。剣に接触すると同時に、溶けるように消えていき、それに追従するようにして剣も閃光を放って消えた。
「なんだ? いったい、何が……?」
「久しぶりだね、長永頼人くん」
聞き覚えのある声がして、頼人は振り向いた。背後には長い髪を靡かせた1人の女性がいた。
「あなたは……」
頼人の驚いた表情を見て、女性ははにかむ。
「ボクのこと、覚えていたみたいだね。まあ、仕方がないか」
女性は視線で何かを合図した。それは頼人に向けられたものではない。振り向くと、笹本が慌てた様子で逃げていこうとしていた。
「待て!」
頼人は笹本を追おうとした。しかし、足を前に出すことが出来なかった。何か分からないが、全く体が言うことを利かなくなっていた。
自分に起きていることに混乱している内に、笹本には逃げ切られてしまった。その背中を唇を噛んで見ていると、女性が回り込んできて、頼人の正面に立った。女性は頼人の手を取り、こう言った。
「さあ、答え合わせをしようか」




