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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
正義の使者

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烏合の衆(トリニティ)

 戸張が戦うのは、菊林と彼女を取り巻く鳥たちだった。ワシ、ツバメ、ハト、カラスが1羽ずつ、コガラが2羽にスズメが3羽と種類も数も豊富な鳥たち。しかし鳥とは言ってもシルエットだけがそれを満たしており、出来損ないの玩具のような材質と外装で本物の鳥とは呼ぶのは無理があった。その出来損ないの鳥たちは、立て続けに戸張を襲ってきた。

 対する戸張は、空を飛ぶ鳥に向かって鍵を投げ続ける。しかし、空を縦横無尽に飛び回る彼らにそれを当てるのは至難の技だ。鍵は虚しく空の青に消え、鳥たちの反撃に戸張は痛めつけられる。戦い始めてから、それだけが続いていた。

「辛そうだね。諦めればいいのに」

 ベンチでふんぞり返っている菊林は欠伸を交えてそう言った。

「お前の力、よく分からないけど、私たちには届かない。無駄な足掻きは惨めになるだけ」

「偉そうなことを!」

 戸張は鳥たちの攻撃を掻い潜り、菊林に鍵を投げた。しかし、それは小回りを利かせて転回したツバメに追いつかれ、蹴落とされてしまった。

「偉そう、じゃなくて、偉いの。だって悪を殺そうとしてるんだから」

「くっ……君はただ見ているだけじゃないか。鳥たちに命令して僕を殺させようとしているだけ。それをさも自分がやったかのように言うのは不遜だ」

「ふそん? 知らない言葉で悪口言われても、なんとも思わない。もっと分かりやすく言ってみて」

 菊林は露骨に煽ってきた。それが分かっていても、戸張は彼女に言葉を返してやった。

「君はただ玉座で座ってるだけの王だ。自分1人じゃ何も出来ない、無能な王だ」

「……へえ、王、か。じゃあ、お前は……いや、お前たちは騎士と姫だ。無力なお姫様を守る騎士様、健気だね」

 空で旋回し、待機していた鳥たちが急降下してきた。彼らの標的は戸張ではなく、彼の後ろにいた零子だった。零子は直立不動のまま呆然と彼らを見上げていた。

「零子!」

 鍵の生成は間に合っていなかった。戸張は零子を突き飛ばし、鳥たちの集中砲火から逃した。そしてその代わりに、自らを彼らの餌食にしてしまった。鋭利な爪と嘴が肉を裂き、強固な翼の羽ばたきで攻め立てられた。戸張は苦痛に顔を歪ませながら、終わることのない攻撃を耐え続けた。

「流石、騎士様。自分を犠牲にしてまでお姫様を守るなんて。ほんと、馬鹿だなあ。何にも出来ない、ぼーっと指くわえてるだけの子を助けて意味あるの?」

 戸張は反論してやりたかったが、声を出すことも出来なくなっていた。じわじわといたぶられていき、立っている事もできずにうずくまってしまった。

 鳥たちに視界を奪われながら、尻もちをついたまま唖然としている零子を見つけた。怪我はないようだ。それだけが救いだった。鳥たちの攻撃が集中している隙に逃げてほしい。そう願い、目を閉じた。だが、その願いは通じず、零子は無残にやられる戸張を見たまま動かないでいた。

「……騎士様がやられてるっていうのに、反応もなし。お前、なんなの? 怖いよ。悲鳴あげるなり、逃げるなりしなよ。なんか反応してよ、気持ち悪い!」

 零子は何も答えない。虚ろな目でじっと戸張を見ている。零子の不気味な雰囲気が菊林に焦燥感を湧かせた。

「みんな、遊んでないで早くそいつ殺して! 終わったら、すぐにあのお姫様を……」

 菊林は言葉を詰まらせた。空気が変わった。重たく冷たい風、いや風というより波動のようなものが体を貫いた。鳥たちもそれを感じ、危険を察知して方方に散った。鳥たちは菊林よりも鋭敏にそれを感じて、どこから発せられたか分かっていた。ガラス玉のような瞳で、波動の元凶、零子を注視していた。

 彼らの視線に釣られて、菊林も零子を見る。零子は静かに立ち上がり、赤い瞳で菊林を見つめ返した。

「きゅ、急になに? 戦うつもり? 役立たずの癖に!」

 零子は全くの無反応だった。菊林の罵倒は零子の耳に届いていないように思えた。言いえぬ恐怖に戸惑う菊林だったが、それに反して、鳥たちは零子に明確な敵意を剥き出しにしていた。

 奇妙な鳴き声を輪唱させると、鳥たちは一斉に零子に飛びかかった。狙いはそのおぞましいほどに赤い瞳だ。皆、それに吸い込まれるように、一直線に飛んだ。

 だが、その盲目的な行動は彼らに災いをもたらした。零子しか眼中になかった彼らは、周りの仲間に気付かず、零子に近づく前に仲間同士で衝突してしまった。ぶつかりあった鳥たちは抗議の声を互いに上げるが、それで治まらず、遂には目的を忘れて皆で喧嘩をし始めてしまった。

「何してるの! そんなことしてる場合じゃないでしょ! ねえ! ねえったら! 私の言うこと聞いてよ!」

 菊林は動揺していた。今まで、鳥たちは些細な喧嘩はしても、これほど大きな、互いを憎しみ合うような喧嘩はしたことがなかった。しかも、敵前でそれをしでかすなど、ありえてはいけないことだ。

 結果、このハプニングは菊林に最悪手を取らせることになった。喧嘩が治まらないと見た菊林は、鳥たちを1羽残らず消滅させた。これ以上彼らに頼っても邪魔にしかならない。所詮、何も出来ない少女1人、自分の力だけで殺せるだろう。その甘い考えが彼女に喉元に刃を突き立てることになる。

 走って零子に接近していき、倒れ伏す戸張を飛び越えようとした時、不意に戸張に足を掴まれた。力のない拘束はすぐに解けたが、バランスを崩し、勢いを残したまま盛大に転んだ。受け身を取れずに顔面をコンクリートに打ち付けしまい、立ち上がることは疎か、意識が朦朧として身じろぐことすら出来なかった。

 一方、戸張は僅かに残る体力と気力で立ち上がり、菊林を見下ろした。菊林は横目で戸張を睨みつけていた。

「殺す……お前も、あの女も、殺してやる……」

 まだ潰えていない菊林の殺意に、戸張はとどめを刺そうと試みた。理力を振り絞り、銀環から小さな鍵を1つ生成した。それを抜き取り、菊林の頭に突き刺そうとしたその時、突如、温い風が強く吹いた。

 空がいきなり暗くなり、頭上に何かの気配を感じた。戸張は空を見上げると、見たことのない化物が太陽を覆い隠しながら、此方に近付いてきていた。

 唖然と見ていた戸張は化物から発せられる風によって鍵が落ちたことに気付かなかった。その異様な生物に全ての意識を向けさせられてしまっていた。

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