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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
正義の使者

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正義を謳い、死を振り撒く

 杏樹と襲撃者2人との戦いは淡々としたものだった。彼らが時間差で放ってくる理に対し、杏樹がそれぞれに相性の良い属性の理を最低限の理量で射出し、相殺する。それを延々と繰り返していた。

 膠着した戦いは終わることなく、変化も訪れることはないと思われていたが、突拍子もなく現れた乱入者がその均衡を破った。

 金属を擦るような音が前触れとして聞こえた。その音に気付き、男は杏樹から目を逸らして音の聞こえる方を向いた。男が見たのは火花を噴き上げるほどの高速回転をしながら地面を滑る棒状の物体だった。その物体は恐ろしい速さで男に向かってきていた。

「並木君!」

 女が男の名を叫ぶ。並木と呼ばれた男は、回避が間に合わず、火花を散らす棒に足をすくわれた。

バランスを崩し、倒れかける並木に追撃が襲う。高い跳躍からの飛び蹴りが並木の顔面を捉えた。強烈な一撃に並木は体を仰け反らせて倒れた。

 更なる追い打ちが来るかに思えたが、女が理を乱射してきたため、攻撃は打ち止めとなった。

「もうちょっとだったんだけどなあ。でも新必殺技『窮鼠の烈花』、キレイに決まったからいいかな。ね、杏樹?」

 花凛は敵から距離を取って杏樹の前に来ていた。

「大層な名前の技ですこと。まあそんなことより、助太刀に来ていただけたのは僥倖ですわ」

「ぎょーこー?」

「……さあ、花凛さん、アホ面をわたくしに向けてないで、構えてください。ここからが本番ですわよ」

 僅かに芽生えた疑問符も杏樹にかき消され、花凛は振り向き、襲撃者たちを見た。

 並木は無表情のまま滴る鼻血を拭い、ゆっくり立ち上がった。

「あんたたち、一体何が目的なの? ていうか、誰の差し金よ?」

「……正義の名の下にお前たちを殺す。ただそれだけだ。」

「あたしたち殺すことが目的なのね。そのためだけに関係ない人たちまで巻き込んでおいて、よく正義面できるもんだわ」

「全く花凛さんの言う通りですわ。貴方がたの方がよっぽど悪と呼ばれるに相応しい行為をしてるではありませんか。それにわたくしたちを悪と断定する根拠があるんですの?」

「並木君、あいつらの言葉なんか聞いちゃ駄目。私たちを惑わそうとしてるんだよ」

「……分かってる。鈴星さん、ここからは容赦せず、殺しにいこう」

 並木は懐に手を伸ばして何かを取り出そうとした。花凛はそれに反応し、すぐに足先で地面をトンと叩いた。

 並木がそれを引き抜くよりも早く、花凛の攻撃が決まった。並木の後頭部に如意棒が勢い良く飛んできて、軽い一打を加えた。花凛が何をしたかというと、ノックを使い、角度を付けた土塊を如意棒の下から発生させ、並木に目掛けて発射させたのだ。

 如意棒は並木に当たった後、ふわりと天に舞い、彼の前に落ちた。花凛が並木に接近しがてら、如意棒を足で跳ね上げて浮かび上がらせると、それを持つと同時に並木の鳩尾に突き当てた。

「キツいのいくよ!」

 振り抜くようにして突くと、並木は後方へ吹き飛ばされた。

度重なる攻撃に並木の体にダメージは蓄積されていたが、彼の執着とも呼べる信念が痛みを和らげ、神経を研ぎすませていた。吹き飛ばされながらも、手に掛けていた武器を花凛に目標を合わせて、引き金を引く。

 花凛は自分に飛んでくる何かを認識する前に、如意棒でそれを振り払った。その正体を確かめようとしたが、振り落とした先には何も残骸らしきものはなく、ただ微かに濡れているだけだった。

 並木の持つそれを見た時に、何を放たれたのか判明した。花凛は思わず溜め息が漏れて、怒りがこみ上げてきた。

「あんた、舐めてるの?」

 並木が持っていたのは安っぽい水鉄砲だった。体勢を立て直した並木は無表情を貫きながら、銃口を花凛に向けた。

「お前はこれで死ぬ。たった1発当たれば、それで死ぬ」

 並木は再び引き金を引いた。襲いくる水の弾丸を花凛はじっと睨みつけた。

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