庭園を穢す者
戸張と零子は鍵の掛かった扉を開けて屋上に出ると、鮮やかな花々と緑に満ちた庭園に見知らぬ先客を見た。
自分たちと同じか下であろう年齢と思わしき少女が、小鳥たちと戯れながらベンチで寛いでいた。
少女は戸張たちに気付いて一瞬視線を向けたが、何も見なかったかのようにすぐに目を逸らし、周りにいる小鳥たちに囁き始めた。
「中々いい場所だね。人は来ないし、騒がしくもない。風も気持ち良いし、緑もある。おまけに寝そべるのに最適なベンチまで。此処を見つけたのは……アレクトー? すごいよ、お手柄。えっ、どうしたの? ……ふふっ、そうだったの。確かにサボってたのは良くないね。でも、結果オーライ。だって、こうして私たちの憩いの場所と……」
少女は視線を再び戸張たちに向け、2人に聞かせるように言った。
「殺すべき敵と出会えたんだから」
「零子、逃げよう!」
戸張は少女が殺意を抱いていることを察知すると、零子の腕を取り、屋上を出ようとする。
扉に手を掛けようとしたその時、風を切り裂く音と共に何かが飛んできて、戸張の手を裂いた。痛みを感じる暇もなく、その何かは戸張を攻撃し続け、戸張はやむなく扉から離れた。
戸張を攻撃してきたのは鳥だった。扉の前に雄々しく立つその鳥は、鋭い嘴と、逞しい足を持ち、2mはあるだろう翼を広げて立ちふさがった。
「その子はウル、ハクトウワシのウル。ちょっと荒っぽいけど真面目な子」
「ハクトウ、ワシ……」
戸張はウルと呼ばれたその鳥を改めて観察した。
少女は迷いなく、その鳥をハクトウワシだと言った。しかし、戸張にはそうだと認識できなかった。いや、寧ろ鳥であるかも怪しい生き物だ。
確かに鳥のように嘴を持ち、翼で空を飛ぶのだが、その全姿に違和感があった。よく見ると、黄色の嘴の一部が剥げて、木目のようなものが現れていたり、瞳も一切瞬きをせずレンズのようなものが表面を覆っている。更に全身に生えた羽毛は強く吹く風に靡かず、体に張り付いているように見えた。
戸張はこの生き物は少女のパーソナルによって召喚された理生命体であると断定した。そして、少女の正体にもなんとなく察しが付いた。
「あの少年の仲間か」
「……ああ、笹本のこと? あいつを仲間なんて思ったことないけど」
「やっぱりか。でも迂闊だな。わざわざ1人で僕たちのところに攻め込むなんて。もうすぐ僕の仲間が此処にやってくる。果たして君は無事でいられるかな?」
「へえ、来るんだ。此処に。そんな悠長なこと、出来るのかな?」
少女がそう言うや否や、何処からかジリリリと激しくベルが鳴った。戸張は周囲を見回すと、屋上の外に微かな黒煙が上っているのが見えた。
「逃げ道はない、誰にも。お前たちが死ぬか、私たちが死ぬか。それだけがこの戦いを終わらせる唯一の方法。どうする? 私に殺される? それとも、私を殺す?」
「君は殺さないし、僕たちも死なない。ただ、清算はしてもらう。散々僕たちの日常を荒らしたことをね」
戸張は鍵を銀環から抜き出し、少女と対峙する。戸張の陰に隠れていた零子は仄かに不安な表情を浮かべていた。




