安らぎを求めて
「……それで、紅蓮たちを襲った子は逃げちゃったみたいで。彼が何者なのか知るために、見回りの仕事にその子の捜索が追加されてもっと忙しくなったんだ。あ、でも今日は花凛が気を利かせてくれて、俺だけ休みを貰ったんだ。最近、あんまり母さんと会えてなかったから……」
微動だにせず眠る母に、頼人は先日の出来事を語りかけていた。
謎の少年に襲われた紅蓮たち。何も明かさずに消えたその少年は悪意とは違う、明らかな意思を持って襲ってきたそうだ。最近の傷害事件の増加に彼が関係している可能性が高いとみて、頼人たちは血眼になって少年を探していた。
そんな日々が続く中、心身の疲弊が目立つ頼人を見兼ねた花凛が皆には秘密で頼人に休暇を与えてくれた。こうしてその貴重な休暇を利用し、久しぶりに母に会いに来ていたのだ。
母と話すだけで頼人の心は穏やかになり、疲れも消え去っていた。たとえ返事がなくても、傍にいるだけで落ち着いていられた。優しかった母が励ましてくれているように錯覚していたのだ。
母の手を握りながらまどろみそうになっていたが、急に病室の扉が開く音がしたため、覚醒させられてしまった。振り向くとそこには服部が驚いた表情で立っていた。
「服部さん?」
頼人の方も驚きだった。まだ服部には母のことを明かしていなかったので、ここに来たことが不思議でならなかった。
互いに言葉を失いながらも、服部は病室の奥へと歩んできて、頼人の真正面まで近付いてきた。
「ごめん、実は花凛ちゃんから聞いてたんだ。此処に頼人君のお母さんがいるってこと。それで最近こっそりお見舞いに来てたんだけど、まさか頼人君と鉢合わせになるなんてね。勝手なことして、ごめんね」
「いえ、謝ることなんてないですよ。寧ろ、ありがたいことです。母さんは色んな人と話すのが好きですから」
頼人は椅子を用意して、服部に座るよう促した。服部はそれに腰掛けると、頼人の母に挨拶をした。挨拶を済ませるとまた沈黙が流れたが、頼人はこの空気が堪らなかったので、何気なく問いかけてみた。
「花凛から聞いたってことはどうしてこうなっちゃったかは知ってるんですよね?」
「……うん」
「やっぱり、そうですよね。あの時、何が起きたのか未だに分かってないんです。いなくなった訳も、こうなっちゃった原因も。服部さんは何か分かりませんか?警察の中で、あの事件の真相を知ってる人がいたりしませんか?」
「……僕も色々と調べているんだけど、まだ何も分からないんだ。でも、事件は必ず解明してみせるよ。必ずね」
服部は立ち上がり、椅子を元の場所に戻すと、ゆっくりと扉に向かっていった。
「もうお暇させてもらうよ。親子団欒のひと時を邪魔するのは無粋だからね。じゃあね、頼人君」
頼人が挨拶を返すのもままならぬ内に、服部はにこやかに退室していった。取り残された頼人は再び母に目を遣り、じっと見つめた。
やるべきことは増えていくばかりだが、何1つとして消化できていない。特に母を治す術を見つけることに関しては、全く進展がなかった。
様々な事態が頭の中で巡り廻り、思考が纏まりきる前にかき混ぜていき、頼人を戸惑わせている。それでも自分を見失わないよう、やるべきこと全てに押しつぶされないようにと、母に語りかけるようにこう呟く。
「1つ1つ、解決していこう。俺が慌ててちゃ駄目だ」




