不穏なる気配
零子の編入は無事に済んだ。
生徒会長の計らいで頼人たちと同じクラスに加わることになり、すぐに馴染むことが出来た。
その特異な見た目を驚かれるだろうと思われたが、誰もそれを気にすることなく、普通に零子と接してくれた。これも理事長が、特殊な理で零子を異質な人間だと思われないようにしてくれているおかげだろう。とにかく、零子の願いは叶い、頼人たちの学校生活はより賑わいを増すことになった。
そんな日常を楽しむ中でも、町の平穏を守るという使命は滞らせることは出来ない。放課後は見回りをこなし、悪意や妖怪を人知れずに滅していくのだった。
いつもは当番の人だけが神社に寄って町へ繰り出すのだが、今日ははな婆が全員召集の号令をかけた。何があったのかは知る由もないが、緊急性のあることだと感じ、全員気を引き締めて神社へと向かった。
社務所の居間に集まると、早速はな婆は用件を話しだした。
「今日から全員で見回りをすることにした」
「えー、なんでよ? まだ杏樹と紅蓮ちゃんのペナルティ消化しきってないんですけど」
すぐに花凛が噛み付いてきたが、はな婆はそれを無視し、話を続ける。
「最近、市内での傷害事件が増えていると服部が言っておっての。悪意が関係していないとは言い切れんから、犯人を内々に処理したいのじゃ。事件の多さを考えて、わしらが総動員で警戒をしなければいかん事態なんじゃよ」
「そういう事情なら仕方ないな。俺たちの夏休みはお終いだ」
そう言って、頼人は花凛の肩を叩いた。花凛は不貞腐れたように頬を膨らませていたが、反論することはなかった。
「しかしながら、気になりますわ。その犯人というのはただの悪意という訳ではなく、三福大介と同じく何らかの目的を持った輩という可能性もありますわね」
「何の情報も得られていないからのう。どんな推測も、『そうかもしれん』としか言いようがないわい。とにかく、今は不穏の芽を摘むことに専念するのじゃ」
「……まあ、杞憂であれば良いです」
議論するつもりは杏樹にもなかったので、その憂いについての話は早々に打ち切られた。
次いで、問題を切り出したのは戸張だ。はな婆が言った「全員で見回り」に物申したかったのである。
「全員で見回りってのに、零子は入っていないだろうね?」
「入れるわけなかろう。確かに零子にも理の技法を教えはしてるが、戦いに応用できるほどの力は身につけておらん。わしと共に此処で皆への連絡係をさせようと思っておる」
「それなら安心だ。事件が落ち着くまで、零子はなるべく外に出ないほうがいい」
「学校に行くのも禁止なんて言わないでしょうね?」
花凛が釘を差してきたが、戸張は力強く否定した。
「そんなことは絶対にしない。何より学校は僕たちが常に一緒にいるし、安全だから大丈夫」
「うんうん、完璧な回答ね」
花凛は満足気に頷き、零子と顔を合わせて微笑んだ。
「かと言って、いつまでもおんぶに抱っこでは困るから、訓練は続けていかねばならんがのう。それはそれとして、わしからの伝達事項は以上じゃ。早速、見回りに行ってもらうぞ。大体の担当区域は決めておいたから、今日はそれに従って見回りをするのじゃ」
はな婆から軽い説明を受けた後、頼人たちは追い立てられるようにして、神社を出発していった。




