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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
Summer Side Story

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どうでも良すぎる難問

 順調に問題を解いていく杏樹。立ち止まっている時間より走っている時間の方が長いため、体力の消耗が危ぶまれ始めていた。ライバルが今どこにいるか分からないという恐怖からも、杏樹は走り続けるしかなかった。

 息も上がってきた中、着いた教室。そろそろ鍵に辿り着きたいが、後どれほど問題が残っているのだろうか。問題用紙を流し見してカードを取ろうとしたが、初めて杏樹の手が止まった。

「なんですの、この問題……」

 思わず呟いてしまうほどに杏樹は困惑した。それほどまでに問題の毛色が変わったからだ。

『Q.伏水日奈美が17才になった回数はいくつか』

『30』

『15』

『44』

『1』

 散々、理の問題を出しておいて、関係なくなるのは如何なものだろうかと杏樹は思った。伏水のパーソナルの力でその身を少女と偽っているのだから、全く関係がないわけではないが。

 文句をいくつ並べても先へは進めない。なので問題を解く姿勢に入るのだが、どういう切り口で解けばよいのか悩んだ。答えを導くにあたっての材料が少なすぎるのだ。その材料を1つ1つ丁寧に見直していくことから始まった。

 まず、この問題の肝は『伏水が17才を何度も迎えている』ということだと思った。すなわち、伏水のパーソナルはただ容姿がいつまでも衰えないのではなく、特定の年齢をループしていると考えられる。そのループする年齢がどこから始まり、どこで終わるのかを考えなければならない。

 だが、残念ながらそれを知る方法はない。推測しようにも情報が乏しい。では、この問題は解けないではないかと思われるが、そんなことはなかった。幸いにもその推測に使える材料が目の前にあるのだ。

 4つのカードに示された数字。その中に1つ正解があるのだから、ループの年齢を仮定し、カードの数字に合致すれば、それが正解になるはずだ。そして、仮定するループも伏水の目的を知っていれば絞り込みが簡単だった。

 伏水はパーソナルを使い、自分の理想となる青春を送ろうとしていた。そのために鳳逸郎はこの鳳学園を作り、姉の伏水を生徒として通わせている。その理想を叶えるならば、伏水が学園に適応した年齢から始まるのが最も効率的だ。卒業と同時にまた学園に入学すれば、無駄なく理想を追い求められる。絞るなら、この間の年齢で違いはない。

 鳳学園は中高一貫校だ。なので、始まりは中学1年からか、高校1年からの2通りある。中学クラスは鳳学園が創立されてから幾分か経って出来たものであるため、一旦置いておき、高校1年からとして考える。つまり、15才から18才の3年をループをしていることとする。

 鳳学園は創立してから今年で45年。その始めから伏水が入学していると考えると、17才を迎える回数は15回だ。カードにもう一度目を向けると、『15』と書いてあるものがある。これが正解なのではないか?

 ちなみに中学クラスが出来たのは10年ほど前であり、そこからループが13才からになったとしたら、15回を下回る。カードにはそれらしい数字もないため、15回が正解であることに疑いがなかった。

 杏樹は『15』のカードを手に取った。これで合っていると思い、カードの裏面を見て、教室を去ろうとした。しかし教室を出る寸前、あることに気付き、慌てて教卓に戻った。

 15回は伏水が鳳学園で迎えた17才の回数だ。鳳学園が出来る前も、彼女は17才を迎えているはずだ。本来の年齢として迎える1回分も然ることながら、弟の鳳逸郎が学園を完成させるまでの間にも伏水はループさせることが出来る。

 鳳逸郎がどれだけの時間をかけて学園を完成させたのかは分からない上に、その間のループの回数を推し量ることも不可能。手詰まりかと思われたが、杏樹は諦めていなかった。何か見落としているかもしれないと、問題文を舐めるように見て、ぶつぶつと呟いた。

「伏水日奈美が17才になった回数……伏水日奈美が17才……伏水日奈美……ちっ、そういうことでしたか」

 問題に踊らされていたことに苛立ちながら、杏樹はカードを取った。

 単純なひっかけ問題だった。この問題で聞いているのは『伏水日奈美』という名前の人間の17才になった回数だ。その名が偽名であることは彼女の弟の苗字が『鳳』であることは明らかだ。何度も同じ学校でループをする都合上、本名はおろか、同じ名を続けて使うことは怪しまれるリスクがある。だから、ループの度に彼女は名前を変えているはずだ。つまり、伏水日奈美という名前の人間は数多のループの中で一度のみしかいないので、現生徒会長であり、3年生の伏水は17才を1回だけ迎えていることとなる。

 何にしてやられたかと言えば、このやる気のないカードが正解だったことだ。選択の段階から眼中になく、始めから考慮に入れていなかったために惑わされて時間を取られることになってしまった。今までの問題の選択肢はこのための布石だったのだろう。

 杏樹は悔しさに顔をしかめて、次なる場所へ走る。今の問題が最後であってほしいと願っていたが、この先では更なる難問が杏樹を待っていたのだ。

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