憂い、想う
病棟の影に2人。人目を憚り会話をしていた。
「……というわけで三福は政治資金流用の疑いで逮捕されました。おしまい」
「おしまい、ってそれだけなんですの? あれだけ屋敷を荒らして、三福自身も縛られたままのはずなのに、何も事件を疑われないんですの?」
「綺麗さっぱり何事もなく、ただの糞政治家の汚職事件として片付けられたよ。不思議なもんだね」
他人事のように服部は言った。その態度が杏樹のお気に召さなかった。
「貴方、仮にも警察なんですから、ちゃんと内部の事情を把握してくださる?」
「僕も色々調べようと努力したんだけど、なんでか知らないけど情報が隔離されてるんだよね。ただでさえ所轄も違うから、もう手も足も出ないよ」
「誰かが意図的に事件を隠蔽しようとしているのですか? 何故その必要が……」
「色々怪しくて仕方ないね。あの時、屋敷に押しかけてきたのも、あまりにもタイミングが良かった。あれは三福を捕まえるって言うより、僕達に襲われている三福を守りにきた感じに見えたよ」
「……ではこう考えられますわね。警察内部に三福と関わりを持った人物がいる。その人物は三福がわたくしたちに何かをされることを危惧して逮捕という形で保護した、と」
「何か、っていうのが謎だね。僕達だけには絶対に渡せない情報、つまり理に関係することかな?」
「思い当たる節はたくさんありますわ。三福や羽黒、それに強盗団の行動、全てが不明瞭なんですもの。その根にある思惑こそが、わたくしたちに知られるべきでない情報だということは間違いないと思うのですけれど」
「まあ、何を知られたくないにせよ、それを暴くには骨が折れるだろうね。ここまで僕達に負け越してるんだ。暫くは騒ぎになるようなことはしてこないだろうし」
「それならそれで好都合ですわ」
杏樹はほんの少しあどけなさが見える笑みを浮かべた。
「戦い続きで疲れが抜けきれないものですから、休暇が欲しいと思っていた頃合いなんですの」
「確かにそうだ。君たちは学生にしては働きすぎだね」
服部は苦笑いで返した。
「動きがない間はやることも妖怪か悪意退治くらいで済むはずさ。君たちが休めるように、はなさんには話をしておこう」
「お気遣い感謝いたしますわ。ふふふ、これで長永くんを……」
杏樹が何かを口に漏らしていたが、服部にはよく聞こえていなかった。聞き返そうとするも、杏樹が話を切り上げようとしたために、その機会を失った。
「そろそろわたくしも大田島くんのお見舞いに参じなくてはなりませんわ。服部殿、はなお婆様への申し入れを宜しくお願いしますわね。それと、警察内部の調査も続けてくださいまし。いつ尻尾を出すか分かりませんので」
杏樹は丁寧にお辞儀をした後、足早に去っていった。服部は杏樹を見送ると、細い溜め息を吐きながら煙草を取り出した。だが、ここが病院だということを思い出すと、口元に運ぶ手が止まった。
「やめ時かな……」
箱に詰まった煙草を見つめ、服部は呟いた。




