目覚めし紅の巨人
誰だろう。この暗黒の中に、自分以外の誰かがいる。気配だけを近くに匂わせて、手を差し伸べることもなく、ただ見ている。話しかけようにも、口が動かない。捕まえようとも、腕も動かない。何も出来ない自分を見て、それは気配を濃くした。
「迂闊だったな。若さゆえか、それとも血の定めか」
反響する声が耳に届く。それに従い、気配が形を作り始め、闇の中にうっすらと現れた。
「お前は弱い。図体だけの木偶の坊。取り柄にもならない体だけで、この先戦っていけるはずはない」
じゃあどうすればいいんだ。何をすればオレは強くなるんだ、と声にならない言葉を吐いた。
「力を求めるなら己を知るべきだ。お前がこの世に生を受けた意味、それを知るのだ」
形作られた気配は霧散したかと思うと、完全に消えてしまった。
多くの疑問が頭に残った。生を受けた意味とはどういうことなのか、それが何故強くなることと結びつくのか、そして、あの声の正体は……
急に目の前に光が差した。考えを遮り、その光に飲まれていく。体に感覚が宿りだした。光の先にあるものを確かめようと、目を大きく見開いた。
「おはよう、紅蓮」
静かに目を開いた紅蓮を頼人は笑顔で迎えた。
「ここは……?」
「病院よ。紅蓮ちゃんはね、魂を抜かれた後、ずっとここにいたの」
頼人と花凛が顔を覗かせる。紅蓮は体を起こそうとするも、言うことを聞かなかった。
「すぐには動けないよ。安静にしてな」
「魂を戻した後も一向に起きないから、ちょっと不安になってたのよね。良かった良かった」
「……悪い、オレに何があったか説明してくれないか?」
紅蓮は羽黒に体を貫かれてから記憶がなかった。今の状況すら分からないので、とにかく寝ている間の全てを知りたかった。頼人と花凛は紅蓮が羽黒に魂を奪われてから、三福の屋敷へ行って魂を取り返したことまでを掻い摘んで話した。
「そうか……迷惑をかけてしまったな」
話を聴き終わった後、紅蓮は鬱気気味に呟いた。
「迷惑だなんて。悪いのはあいつらだから、紅蓮が気にすることじゃないよ」
「そうそう。それに、色々と収穫もあったからね」
花凛が上機嫌に語り始めた。如意棒のこと、白い少女のこと、そして一番声を大きくして言ったのは頼人のことだった。
「頼人ったら、紅蓮ちゃんのためにすごく頑張ったのよ。理の使い方も上手くなったし、勝ち方も分かってきたし、どんどん強くなってる。羽黒だって頼人が1人で倒したんだから」
「いや、あれは花凛も手を貸してくれただろ……」
「何いってんの、あたしなんてちょっと小突いただけよ。あ、あとダイヤモンドの像もね、頼人が……」
紅蓮は騒がしい声が遠のいていくように感じた。おぼろげな記憶の中、夢の声を思い出す。それがただの杞憂であることに望むことしか出来なかった。




