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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
悪の館

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金剛力士

 如意棒を肩に負い、鼻歌混じりで歩いていた花凛。あらゆる扉を蹴破り、三福の名を叫んでは、いないことに軽い舌打ちをするのを繰り返していた。虱潰しでそれをやっていたから、いずれ見つかるのは確かだったが、それが叶ったのは舌打ちに余裕がなくなった頃だった。

「おらぁ! ここにいるのかヒゲデブ!」

 突入した部屋は四方に本棚が設置してあるだけの比較的質素な部屋だった。その中央には本を読むために置いてあるのだろう机と椅子があったが、そこに三福はいなかった。

「まーたハズレ? いい加減かくれんぼは飽きたんだけど」

 花凛は踵を返して部屋を出ようとした。だが、それを如意棒が慌てて止めた。

「ちょっと待って! いるよ、いる!」

「え? どこに?」

 くるりと回転して部屋を眺め直した。よく見ると、本棚の影に人の背中がはみ出て見えていた。

「ふっ、あたしとしたことが目が腐ってたようね。贅肉が隠れてないぞ、デブ!」

 怒声に反応して、それは渋々と出てきた。容姿は如意棒の言った通り、ハゲでデブだった。間違いなく三福だと花凛は確信した。

「……いやはや見つかってしまうとは、ハハッ。日頃の運動不足がこんなところで響いてくるとは思いもしなかったよ、アハハハ……」

 三福は笑って誤魔化そうとしていたが、花凛には通用しなかった。厳しい視線は一向に三福を責め続けた

「そ、そんな目で見ないでくれたまえ。私も悪かったと思ってるんだよ。反省はしてるのだ。やり方が強引だったし、何より人を傷つけてまでしてやることではなかった。本当に申し訳ない」

「あんたに謝られるようなことされた覚えがないんだけど。あたしたちが恨みを持ってんのは羽黒。あんたは羽黒を利用して何か企んでたんでしょ? それを吐けば、さほど痛い目を見ずに済ましてあげるわ」

 三福は怯えを表しながら、目を忙しなく動かした。その間も笑っていたが、ただ花凛の神経を逆撫でするだけの行動だった。

「ほら、言うか言わないかはっきりしろ! これ以上はぐらかすようなら、この獅子川花凛とピーちゃんが裁きを下すわよ」

 如意棒を自慢気に振り回しながら、三福を脅した。

「げっ、それは如意棒じゃないか。盗みやがったな!」

「人聞きが悪いわね。あたしはただピーちゃんを助けてあげただけ。あーそういえば、ピーちゃんはあんたに恨みがあるんだったっけ。だったら、もう躊躇う理由もないかな」

 花凛はゆっくりと三福に近寄っていった。壁の本棚まで三福を追い込み、如意棒を腹に押し当てた。

「うげっ、やめたまえ。暴力は良くないぞ……」

「悪者に振るう暴力だったら、神様も笑って許してくれるでしょ。じゃ、お仕置きタイムの始まり始まりー」

「待ってくれ、本当に反省してるんだ。だから頼む、痛いのだけは勘弁してくれ。私は、私は……うっ、うう……」

 三福はみっともなく泣きじゃくった、かのように装った。一瞬、良心が揺らいだ花凛に付け入り、腹の力で如意棒を跳ね返した。

「馬鹿め、痛い目を見るのは貴様だ!」

 突如、本棚を貫いて大きな腕が現れた。煌々と輝くその腕は、そのまま花凛に突っ込んできた。花凛は咄嗟に如意棒で防ぐが、勢いには勝つことが出来ず、後方へ大きくふっ飛ばされた。

「ぐっ、こんにゃろ……」

 体勢を整えて身構える。三福の背後の本棚と、更にその裏の壁さえも壊れて登場したのは輝きを放つ巨大な仁王像だ。

「まったく、これでは全て台無しだ。どれだけの費用がこの屋敷に掛かっているのか分かるか? 小娘1人の体では償いきれないな」

 仁王像は三福の前に躍り出た。透明度の高い仁王像を通じて、三福の歪んだ顔が見える。それが花凛を挑発しているかのように映り、腹ただしさが増していった。

「ふん、まああんたが理を使えるってのは想定内よ。寧ろ心置きなく、本気でぶっ飛ばせるようになったわ」

 如意棒を力強く握りしめて、仁王像に突撃した。対する仁王像も拳を振り上げて迎撃の体勢に入っていた。花凛は拳に合わせるように如意棒を振りかぶり、渾身の力で叩きつけた。

 如意棒と花凛の力は、仁王像を上回った。拳を弾き、余力を残したまま仁王像の腹に跳びかかった。その後ろにいる三福諸共、如意棒で貫こうとする。

「ピーちゃん、伸びろ!」

「はいさ!」

 如意棒は花凛に命令される前に伸び始めていた。仁王像の腹へと向かった如意棒は、その奥を目指し伸びに伸びた。だが、仁王像が貫かれることはなく、伸び余った如意棒は花凛を遠くへ退かせてしまった。

「ちょっとピーちゃん? あれくらいぶち抜いてよ」

 元のサイズに戻った如意棒を見て花凛は言った。

「僕もイケると思ったんだけどねえ。あれダイヤモンドで出来てるのかな? あはは……」

「あはは、じゃないわよ。ダイヤも壊せないで何が世界最強よ」

「いやいや、ダイヤモンドは壊せるよ。でもね、あれは理の力も加わってるみたいだから、更に硬いってワケさ。そうなると、僕だけの力じゃ難しいよね」

「じゃあ、どうやって倒すの? あれなんとかしないと三福に攻撃は通らないわよ」

「そうだね。だから、ここからは花凛ちゃんに頑張ってもらおう」

 花凛は自分の感情をどう表していいいか分からず、如意棒を齧った

「ちょちょちょ! 僕けっこうデリケートなんだからやめてよ!」

「だったら真面目に答えなさい」

「真面目も真面目、大真面目だよ? あれは僕の力だけをぶつけても無理。だから、僕の力を花凛ちゃんにあげるから、それで倒してよ」

「ピーちゃんの力? それって土の理じゃないの? それならさっきから勝手にくれてるじゃん」

「ノンノン。そんなの僕の力の上澄みみたいなもんだよ。もっともっと濃くて、花凛ちゃんにあったスペシャルな理を今から作るからさ、少しの間、待っててね」

「今からって、大丈夫なの? そんなのんびりしてられ……」

「あ、前見て、前。来てるよ」

 花凛が顔を上げると、すぐそこに仁王像がいた。まさに拳を振り下ろそうとしているところで、間一髪それを躱した。

「ひゅー、危なかったねえ。じゃあ、僕は理作りに集中するから、出来上がるまで踏ん張ってね」

 如意棒から流れてきていた理が完全に途絶えた。仁王像から逃げながら、花凛は如意棒に呼びかけるが反応が返ってこない。花凛は少し焦った。

「ピーちゃんなしで凌げってキツい話ね。さあ、どうしたもんか……」

 とりあえず、土の源石を手に取って理を得ると、仁王像に合わせた最小限の回避行動で、時間稼ぎを始めた。

「さっきまでの威勢の良さはどうしたんだ? 逃げてばかりでは私のところまで来れないぞ」

「うっさいわね、今は仏像様と踊りたい気分なのよ!」

「そうか、踊りたいと。だが少しばかり味気ない踊りだ。金剛よ、ここは大人の男として、お嬢さんをリードしてやってくれ、激しく、情熱的にな」

 仁王像は急に動きが俊敏になった。回避のテンポが崩れた花凛は、攻撃を避けきれなくなった。一旦体勢を立て直すために、花凛は回避を止めて逃走することにした。仁王像を視界から外し、一目散に部屋から出ていった。

 あわよくばこの小さな扉を潜れずにいてくれれば良かったのだが、そんなことはなく壁ごと破壊して仁王像は追ってきた。全速力での追いかけっこが繰り広げられた。相手が屋敷が壊れることを構わずに追ってくるのだから、花凛も遠慮なく逃げ道を自分で作りながら逃げた。もはや屋敷は無法地帯と化し、花凛と仁王像が通った場所は跡形もなくなってしまった。部屋と廊下の境目も消え、花凛は自分がどこを行っているのか分からなくなってしまった。そんな時、目の前に2つの人影が現れた。どちらも見覚えのある顔をしていた。

「ありゃりゃ、向こうもやりあってる最中ね。おーい、よーりとー!」

 花凛は大きな声で幼なじみの名を呼んだ。

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