憤怒閃く
先に仕掛けたのは頼人だった。光弾が鋭く放たれ、羽黒に命中した。光の残滓が飛び散り、羽黒が纏っていた闇が薄くなったが、すぐに元に戻っていった。直撃した本人も、少し目が見開いただけで、大きなダメージを受けた様子はなかった。
羽黒の手元に闇が集まりだした。次第に形作られていき、大きな鎌に変化した。これで攻勢に移ろうとしていたが、それよりも早く頼人が動いていた。手には既に光の剣が握られていて、それを大きく掲げて羽黒に飛び込んだ。
頼人の一撃は紙一重で防がれた。鎌と剣の鍔迫り合いが始まった。剣を押し込もうとしていきり立っている頼人に対して、羽黒は顔色を変えずに頼人の攻撃を受けていた。しばらく均衡を保ってせめぎ合っていたが、羽黒が鎌に力を込め頼人を押し戻した。それから互いに距離を置いて、出方を伺う立ち回りへと進んだ。
「紅蓮の魂はどこだ!」
剣先を羽黒に合わせながら、頼人は叫んだ。だがその声は闇の中に沈んでいき、羽黒には届かなかった。それがますます頼人の感情を高ぶらせた。怒りの感情が己の中にある理を増幅させていた。光の剣が一層の眩さを放ち、形を認識できないほどの光量となっていた。あまりの眩しさに羽黒が顔を逸らすと、その隙を見逃さなかった頼人は剣を投げ付けた。回転しながら飛んでくる剣に、羽黒は目を向けられず、闇雲に鎌で払い除けようとしていた。剣はそれで弾かれてしまったが、頼人は止まっていなかった。自身もまた羽黒に接近していて、鎌を振り終え無防備になっていたところに勢い良く跳びかかって拳を振るった。
理も何もない、素手での攻撃だったが、羽黒の頬に的確に命中して傷を与えた。羽黒は血の混じった唾を吐くと、仕返しとばかりに頼人を思い切り殴って追い返した。
「危険な戦い方だ。闇に対抗できる光をそう雑に扱っては、命がいくつあっても足りない」
剣の消失と共に、羽黒は淡々とした口調で言った。
「それがどうした! お前にとやかく言われる筋合いはない!」
「……ごもっとも。復讐に駆られた哀れな少年には、友と同じ末路が相応しいか」
羽黒はため息混じりに呟くと、鎌を振りかぶった。頼人も光の剣を再び発現し、対抗する。頼人と羽黒の戦いは熾烈を極めていったが、どちらがこの戦いを制するかの答えは戦略の上にないのが現状だった。




