役立たずビビり巻き込まれ単純ポンコツ背信バカメイド(足手まといではない)
「ひええええなになになになになんなのおおお!?」
突然訪れた地震に身をかがめる垂葉。頼人は彼女を庇いながら、辺りを見回した。
揺れはすぐに治まった。頼人は立ち上がり、何事もないことを確認した。だが、垂葉は依然として縮こまって震えていた。
「もう大丈夫ですよ。ただの地震みたいです」
「ほんとに? ほんとのほんとに大丈夫?」
涙を溜めて怖がる垂葉に頼人は安心を与えるべく、優しい口調で話しかけて落ち着かせようとした。
「絶対大丈夫です。それにこれから何があったとしても、俺が守りますよ」
「……君、優しいんだね」
「まあ、女の子には優しくしろって教えられてきたので」
頼人が苦笑いすると、垂葉も微笑んだ。
「ふふっ、こんな紳士さんがいれば怖くないかな。ごめんね、パニクっちゃって」
「謝ることなんてありませんよ。立てますか?」
頼人は手を差し伸べたが、垂葉は自力で立ち上がった。
「余裕余裕! もう全然怖くない。道案内の任を果たしてみせるから、安心してね。よっし、レッツゴー!」
これがきっかけとなって、垂葉は恐怖を克服したようだった。しかし、必要以上に元気になってしまい、それが頼人を困らせることになる。
「私、垂葉よもぎっていうの。君の名前は?」
突然自己紹介が始まって戸惑った。
「え、えっと、長永頼人です」
「頼人君ね、いい名前だなあ。高校生だよね?」
「ええ、そうです。高2です……」
「だよねだよね! 高校生っぽいって思ったんだ。私は22才だから、頼人君のお姉さんだよ。一緒に来てた人たちはお友達? というか、何しに来たの? あの魔法みたいなのは何? 猫とか狐みたいなのは?」
垂葉は饒舌に饒舌を重ねて、頼人を質問責めしてきた。自分たちの戦いに関わってしまった以上、それらをはぐらかすには無理がある。機嫌を損なわせる様なこともしたくないので、頼人は正直に尋ねられたことを答えていった。
「へえ、紅蓮って子を助けるためにねえ。旦那様が悪者かあ。あの人悪そうな顔してるしなあ。どこから湧いてくるんだよ、ってかんじでお金もいっぱい持ってるから、やっぱり悪い人なんだね。じゃあ成敗しなきゃってなるよ、私も。」
「……垂葉さん、主人に対する評価低そうですね」
「そりゃあ、入って数日のバイトだもん。メイド長みたいにずっとこのお屋敷で働いてるわけじゃないからね」
「あー、なるほど」
色々と合点のいく返答だった。たかがバイトでこんな災難に遭ってしまった垂葉に同情すらした。この戦いが終わったらこの人に謝罪とお礼をしっかりしなくては、と考え始めた時、頼人の視界が急激に暗くなった。
「わっ、今度はなに? 助けてえ頼人君!」
怯える垂葉を背中に隠して、頼人は闇の中から現れる男を睨んだ。探し求めていた人物、憎むべき仇敵、羽黒閃が襲いかかってきた。




