役立たずビビり巻き込まれポンコツメイド
化け猫掃除が終わり、頼人は辺りを見回した。
「あれ? 御門さんと和吉がいない」
「はあ、何やっとるんじゃ……まあ放っておいても心配はいらんじゃろう。それより……」
はな婆の視線は隅でへたれこんでいる垂葉に向いた。
「ひぇっ、な、何なんですか。来ないでください、来たらあれですよ、も、もももも、漏らしますよ!」
「……こやつは化け猫ではない、というより何も知らなそうじゃのう。どうじゃ、戸張。何かこやつから見えるか?」
「混乱と焦りと動揺……それで鍵穴は埋まってる。少なくとも尿意は催してないから近づいても大丈夫」
はな婆は深い溜め息を吐いた後、遠慮無く垂葉に詰め寄っていった。
「おぬしに案内を頼みたい。やってくれるかのう?」
「あ、案内ってどこへ?」
「三福と羽黒のいる場所じゃ。この屋敷におるんじゃろ?」
「旦那様と、羽黒? 誰ですか羽黒って?」
「こんな下働きが知ってるはずないか。仕方ない、三福の居場所まで案内してもらおう。ほれ、立て」
はな婆に手を引っ張られて、垂葉はなされるがままに立ち上がった。
「旦那様、この時間だと確か……あれ、どこにいるんだっけ? えーっと……すみませえん、分かんないですう」
「はあ、使えんのう。こんなポンコツをよく雇う気になったもんじゃ」
「まあまあ、悪い人じゃないんだから、出来ることだけでも協力してもらおう。あの、三福がいそうな場所とかって分かります?」
頼人は苛立ちを募らせるはな婆とそれに怯える垂葉を取り持った。
「ええ、それならたぶん書斎だと思います。あ、でもお客様がいる時は応接間にもよくいらっしゃいます」
「書斎と応接間か。羽黒を客として迎えているなら応接間も可能性が高そうだ。でも、そうでないなら書斎……どうするはな婆?」
「闇雲に探しても時間を浪費するだけじゃ。素直に二手に分かれて、書斎と応接間に向かうのが得策じゃろう。おいポンコツ、書斎と応接間はどこにあるのじゃ?」
「ヒッ、しょ、書斎は3階で、応接間はこの先を行って右に曲がればあります」
「距離のある分断になるか。ふーむ、どうやって分かれよう」
はな婆が悩む素振りを取ると、頼人はすかさず提案した。
「俺が書斎に行くよ。はな婆と戸張くんは応接間に向かってくれ」
「おぬし1人で行くのか? 無茶が過ぎる」
「花凛だって1人なんだ。俺が1人だって問題はないはず。それに、案内役にも付いて来てもらうし、大丈夫」
頼人は垂葉の腕を掴み、隣に置いた。
「え、ええ?! もう場所は教えたじゃないですか、解放してくださいよう」
「3階って言われても分かんないんで、お願いします。危険な目には遭わせませんから」
「うう……分かりました……」
垂葉は観念したようだ。続いて、はな婆に了承を尋ねた。
「いいよね、はな婆?」
「むう、何かあったらすぐにわしらのとこに来るのじゃぞ」
「うん、無理はしない。じゃあ、さっさと行きましょう。はな婆、戸張くん、また後で」
頼人は垂葉の手を引いて駆けていった。残されたはな婆と戸張も目配せをして、応接間へと繋がる廊下へ向かった。この時、はな婆も戸張も、微かながら不穏な空気を感じ取っていた。




