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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
悪の館

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正しいヒマワリの育て方

 格子伝いに進み、屋敷の裏に回った花凛は手頃な窓を探して外壁を眺めていた。高い位置にある窓が最良だが、登る手間を考慮して2階相当に位置する窓を侵入口に選んだ。

 まずは格子を乗り越えて、敷地内に入った。辺りを気にしながら屋敷に近づき、理の力を借りて外壁を蹴り上がるように登った。窓の淵に手が掛かると、中を確認するためにゆっくりと顔を覗きこませた。どうやらここは階段の踊り場のようで、絵画や陶器などが佇むだけで人の姿は見受けられなかった。

 花凛は作戦が成功しているのだと思った。はな婆たちが正面から堂々と入ることで、そこに敵が集中する。花凛はがら空きになった隙を突いて別口から侵入し、三福を捕まえるという作戦だ。

 作戦通り、花凛は窓を叩き割って密かに屋敷内に侵入した。さながら怪盗のごとく華麗な着地を決めて、三福の捜索へと一歩足を踏み出した時、想定外の出来事が発生した。

「何者だ!」

 花凛は階段を見上げた。

「あーあ、早速バレちゃったか」

 溜息混じりに呟くと、開き直って上にいる男に素性を明かした。

「この世に蔓延る悪を許さぬキュートでストロングな正義の女子高生、獅子川花凛ちゃんよ!」

「は?」

 素直な反応が返ってきたが、花凛は続けた。

「さあ、あたしが名乗ったんだからあんたも名乗りなさい。それが出来ないなら尻尾巻いて親分のところに報告に行くことね」

「こういう馬鹿に付き合う義理はないが、先生に報告するほどでもなかろう。私は比良平次ひらへいじ。三福先生の秘書を務めている」

「素直でけっこう! じゃ、三福の居場所、吐いてもらうわよ!」

 儀礼が終わると花凛は階段を飛び上がり、その勢いで比良に殴りかかろうとした。しかし比良の反応は早く、花凛の攻撃は簡単に躱された。距離を取ろうと後ずさりする比良を見た花凛はストーンホルダーに手を入れた。そして、タイミングを見計らって足先で床を小突き、比良の足元に小さな土塊を隆起させた。

 比良は土塊に足を取られ、バランスを崩した。その間に、花凛は素早く詰め寄って殴打を与えようとした。

 比良の顔面に向けて放たれた拳だったが、比良は倒れながらもそれを受け止めた。そしてその拳を思い切り引っ張り、花凛を床に叩きつけた。

「ぐっ、いったあ……」

 受け身を取り損なった花凛は打ち付けられた背中を労りながら立ち上がった。

「とことん馬鹿だ。自分だけが理を使えるとでも思っていたか?」

 比良の手には黄土色のメダルが握られていた。花凛が簡単にあしらわれたのは、比良も自身の身体能力を強化していたからだった。

「パワー負けしたのは久しぶりね。まあ、いいわ。そういうのは慣れっこだから、寧ろ本領発揮できるってもんよ」

「いや、もう無理だ。お前は近接戦闘に偏重した理使いだろ? ここからはお前の攻撃は一切通用しない」

 比良は小さな粒のような物を取り出した。何を思ったのか、それを自らの鼻に詰め始めた。

「……あんた、何してんの?」

 あまりのシュールな行動に花凛は戸惑った。比良は構わず、もう1つ粒を取り出して空いている鼻の穴に詰め込んだ。その粒を良く見てみると、どうやらヒマワリの種のようだった。種を鼻に詰めて何をしようというのか。花凛は比良の間抜けな面を、半笑いで見て固まっていた。

「笑っていられるのも今のうちだぞ。我がパーソナルの力、とくと見るが良い!」

 鼻に詰めた種から芽が出てきた。芽は著しい早さで成長し、茎が伸びていった。ヒマワリのものとは思えない、木質の太い茎は比良の体を伝っていき、全身に行き渡った。最後に頭の上に2つの蕾が出てきて、成長が止まった。

 一瞬にして化け物に変身した比良に、花凛は一転して危機感を覚えて身構えた。葉と茎の間から覗く目は狂気を孕み、じっと花凛を睨んでいた。

「くくくっ、どうだ? 恐ろしいだろう? これが力、圧倒的な力だ!」

「いや、キモすぎんだけど。力と引き換えにキモさ十割増しってやつ? あたしならそんなパーソナル願い下げだわ」

「……その減らず口、すぐに黙らせてやる!」

 比良は甲冑でも纏っているかのように、ゆっくりと動き出した。強気な態度に見合っていない鈍重さに、花凛は肩透かしを食らった気分になった。迎撃体勢を取るまでもなく、軽やかに比良の背後に周って攻撃を試みた。

 跳躍と共に鋭い蹴りが比良の首に放たれた。花凛自身も会心の一撃が決まったと思った。だが、首に巻き付いていた蔓が衝撃を受け止めた。蔓はそのまま花凛の足に巻きつき、動けなくなってしまった。

「何よこれ、放しなさいよ! って、うわ!」

 蔓は抵抗を許さないほどの力で花凛を持ち上げ、勢い良く投げ飛ばした。廊下にある骨董品を巻き込みながら飛んでいき、勢いが止まることなく壁に激突した。全身を強く打ったが、土の理のおかげでダメージは抑えられた。それでも全てが抑えられてはいないので、痛みを堪えながら立ち上がり、少しづつ近付いてくる比良に目を向けて思考した。

 自分の攻撃が甘かったとは思わない。比良の防御能力が上回っただけだ。体に巻き付いた植物は攻撃を防ぐためのもので、更に蔓を絡ませて動きまで封じることが出来る。体を張った戦いしか出来ない自分にとって、この植物の鎧は鉄よりも脅威だ。だったら、距離を置いて、射出で攻撃すべきだろう。幸い、防御能力の代償として速さは落ちているから、いくらでも距離は取れる。ただし、問題が2つある。

 1つは加減が効かないこと。派手に戦って屋敷が崩壊でもしたら一大事である。それに、せっかく頼人たちが暴れて敵を惹きつけているのに、こっちが目立った行動をするのでは意味がなくなってしまう。もう1つは弱点を突く攻撃が出来ないこと。相手の植物は土の理で強化されているということはメダルが示してくれているのだが、土に有利が取れる風の理が花凛には扱えなかった。あまりにも才能がなく、はな婆からも諦められていたため、今回の戦いにおいて風の源石を持ってきていないのだ。よって、ただでさえ苦手な射出を、弱点も付けずに、出来るだけ力をセーブして使って戦わなければならないということになる。こんなこと無理だ。

 花凛はストーンホルダーの中で迷わせていた手を止めて、土の源石を取った。面倒なことするくらいなら、一番自信のある身体強化に賭けるほうが勝機はあると考えた。源石が空になるまで理を取り込み、体に理を巡らせた。

 十二分に理が行き渡った。自分の持つ最高の力を漲らせて、比良に向かっていった。比良が反応することが出来ない速さで近づき、顔面目掛けて拳を放った。先程とは比べ物にならないパワーで放たれた攻撃だった。

 確実に効いていた。比良はよろめき、倒れそうになる。花凛はすかさず追い打ちを加えていった。一発一発に全力を込めて、倒れまいとする比良を攻めていった。一心不乱に殴るあまり、比良に変化が起きていることに気付かなかった。それに気付いたのは、自身の眼と鼻に違和感を覚えた時だった。

 突然、眼が痒くなった。鼻もムズムズしてきて、集中力が切れた。攻撃の手が緩み始めた時、比良は仰け反る体を起こして、花凛に頭突きを食らわせた。花凛の頭に硬い衝撃が走ったのだが、それだけではなかった。同時に黄色い粉のような物が撒き散らされ、眼と鼻に大いなるダメージが与えられた。

「ふぇ……ふぇっくしっ!」

 堪らずくしゃみが出た。一度出た後は止まらなくなってしまい、ひとまず比良から離れて状況を確認することにした。痒みが治まらない眼を擦りながら比良を見ると、彼の頭の上に、歪な形の大きなヒマワリが2輪咲いていることに気付いた。ヒマワリは比良が少しでも動くと、黄色い花粉を大量に出していて、比良の周囲は霧に包まれているようだった。

「へっくし! ああ、最悪。その花粉が悪さしてんのね」

「ご明察。そこらの花粉とはワケが違う。少しでも粘膜に入れば、止まらぬ痒みと疼きが襲いかかる。スギ花粉など比にならない強力な花粉だ。近づけば再びお前に悪夢が訪れるぞ」

 手の出しようがなくなってしまった。未だに残る花粉症状にさえ、制裁を欠かされているというのに、またあの花粉の中に飛び込むのは愚策にも劣る策でしかないのだ。

 とりあえず、症状が治まるまで逃げることにした。くるりと身を翻して行き止まりまで走ると、近くの扉を開けて部屋の中に入った。年季の入った食器棚で扉を塞いで時間稼ぎをし、一旦落ち着くことにした。

 どうすれば比良に勝てるか。近づかずに高い威力の攻撃を放つ方法を考えても、全く思いつかなかった。万事休す。唇を噛みしめて、己の無力さに憤っていると、何処からか声が聞こえてきた。

「力が欲しいかい?」

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