元凶との対面
「……了解した。全部隊撤退完了。残るは我々だけです、栄師・ミナ」
「宜しい。奴ら、もっと対応に苦慮するかと思いましたが、的確に処理しているようですね。忌神子が残っているのは知っていましたが、主力抜きでもあの程度の獣相手なら戦える、と」
ミナは車の窓越しに街の様子を伺っていた。民間人は早々に避難し、人の気配は何処にもなかった。
興味本位で車から降りた。妖怪と名もなき正義と戦った痕跡が随所に残っている。
「5年前の方が凄かったな。あの地獄をまた見られるかと期待していたのに、こんなものか」
車に戻ろうとしたが、強い気配を感じて足を止めた。吹雪のような冷たさと殺意が込められた気配は間違いなくミナに向けられていた。
「来たんだ。忌神子」
ミナは気配の方へ向かっていく。気配が強くなっていき、ミナは興奮が抑えきれなくなっていた。
盲目となって歩いていたがために、降りかかる不幸に気付けなかった。突如、消火栓が壊れ、凄まじい量の水が脇から襲い掛かってきた。水に飲まれ、強い衝撃を受けて倒れながらも、ミナの視線は揺らがずに迫りくる忌神子、零子を見ていた。
「どうして此処にいる、虹原」
零子は真紅の瞳でミナを睨む。
「私はあのお方ではないよ、ミナと呼んでくれたまえ」
「しらばっくれないで。お前が『宿』なのは分かってる。お前の中に虹原がいるんでしょ」
零子の鉈を握る手が小刻みに震えていた。
「お前たちオメガ教が妖怪を彩角に呼び込んだ犯人だな。大切な思い出が詰まったこの街を二度とお前たちに壊させるもんか!」
「確かに、君には此処の思い出しか残っていないだろうからね、忌神子」
零子はその単語を聞き、怒りの中から我に返った。
「なんなの、忌神子って……私の何を知ってるの、お前たちは」
「全てを知ってる。君が生まれた場所も、君の御両親も、君が生まれた理由も、全てだ。そして、君はその全てを自分で壊したのさ」
「私が……壊した……?」
ミナは邪悪な笑みを浮かべながら立ち上がる。
「少し喋りすぎたかな? まあ、君が知る必要はないだろう。君は忌神子であり続ければいいだけ。そうして生を維持してくれていれば、世界はどんどん傾き、歪み、綻んでいって生まれ変わることが出来るのだから」
零子は胸に重い感覚を覚えてしまった。自分が知りたいと思うだけで、そこに縁へ向けた自分の言葉が返ってくるのだ。
鉈を強く握り直す。鈍り出した感情を抑え込むように、鉈から溢れる殺意に同調した。
「虹原……お前を殺して全てを終わらせる。絶対に殺す」
「君は私を殺せはしないし、私は君を殺さない。だから少々、嬲らせてもらいましょう。忌神子は揺り籠で泣き喚いているだけで良いのです」
雌伏していた式神たちが一斉にミナに飛び掛かる。零子は声を上げながら、式神と共にミナに斬りかからんとした。