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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
記憶のダイアリー
189/253

皇帝の塔

 琉華は薄氷を渡りインペリアルタワーに向かっていたが、道中でそれを止めて地上を走ってタワーを目指した。

 理を使う力、つまり理力を消耗しすぎた。薄氷の形成が不安定になり、足を置いた瞬間に崩れて落下しそうになったところで理力切れを感じた。

 消費した理力を回復させるために理の使用を止めた。先に待っているだろう妖怪たちとの戦いを見据えても、理力を万全の状態に戻しておきたかった。

 目的のインペリアルタワーまでは走って5分と掛からない距離に来ていた。聳え立つ巨塔は近付くにつれて更に存在感を増していった。

 5年前に起きた大規模爆破テロ。その中心地であった場所にインペリアルタワーは建てられた。建設には御門グループが関わり、800億もの費用を使って世界最大の電波塔を建てた。凄惨な事件の跡地に昂然と立つそのタワーは再生の象徴として人々に勇気と希望を与えていた。

 当時のことは琉華も覚えていた。地鳴りと爆音、崩壊していくビル群。非現実を目にしても、さほど驚きはなかった。それが起きた直前に非現実が襲ってきたために動揺を抑えられていた。異常性を示す男に襲われそうになったところを、胡散臭い見た目の男に救われた。

助けてもらわずとも撃退できたのに、と今でも思っていた。しかし、彼が落としていった水晶のように煌めく糸、クリスタルストリングと命名したそれのおかげで強くなれたことには感謝していた。いつか彼と再会し、感謝と共にクリスタルストリングを返そうと思っているが、その時がまだ来ないことを祈っていた。

琉華はクリスタルストリングを腕に纏わせて、インペリアルタワーの膝下から上部を仰ぎ見る。妖怪が言っていた『テッペン』は上部に見える展望台を差しているのか、それとも言葉通り天辺のアンテナ、その近くの足場辺りにいるのか。どちらにせよ昇っていけば分かることだ。

まだ理力が回復しきっていなかったため、ひと呼吸を置いてから薄氷で昇ろうと考えていた。一度、地上に視線を戻して周囲を見回す。行き交う人々は何も知らずに日常を過ごしているようだった。

タワーの入り口の前に何気なく目を向ける。人通りが多くなっているその場所で、タワーから出てきた一人の男がふと上空を見上げた。

「あれ? おい、なんか落ちてくるぞ。危ない!」

 いくつもの悲鳴が上がる中、空から何かが落下してきた。人混みは一気に散っていき、その正体が顕になる。

「ひゅー、たまんねえな。人間ちゃんのビビりっぷりはよう」

 毛むくじゃらの猿のような姿をした妖怪がそこに立っていた。琉華は逃げ惑う人々を掻き分けながら、妖怪に近付いていった。妖怪はただ1人向かってくる琉華に目を遣る。

「おっ、なんだやる気ある系?」

 琉華は弓を発現させて、即座に矢を放つ。妖怪はそれを軽快に避けて、琉華をじっくりと観察する。

「面白い武器持ってんねえ。おたく、何者よ」

「砂和を返しなさい」

 琉華は矢を番え、次の一射を準備する。

「ああ、お姫様のお友達ね、どうも。俺は鋼撚こうねん。賢い妖怪ですよ」

 鋼撚は軽い口調でそう言った。

「貴方が何でどうとか興味ないから。砂和は何処にいるの?」

「上よ、上。テッペンつったじゃん。つーか、お姫様はどしたんよ。連れてくる約束したじゃない」

「連れてきたところで邪魔なだけだし。私が全部、1人で終わらせるからね」

 琉華は弓を構えて2射目の矢を放つ。顔に目掛けて飛ぶ矢を鋼撚は最小限の動きで避ける。

「怖えよ、ネーチャン。殺す気満々じゃんか。こうも好戦的だと俺も手は抜けねえな」

 鋼撚は腕の毛を何本か抜き、指でそれを捻じる。捻じっていく程に毛は長さと太さが増していき、やがて片手で持てる大きさになった。

 槍のようになった毛の集合体を琉華に向けて投擲する。琉華は矢を放ちそれを撃ち落とそうと試みる。琉華の矢は寸分の狂いもなく槍の先端とかち合う。しかし、槍は氷に飲まれることなく矢を砕き、勢いを失わずに琉華に向かってきていた。

 予期していない事態に琉華は回避行動を忘れて呆然としてしまった。瞳に映る槍は真っすぐ自分に向かってくる。貫かれるとも思う暇がなかった。

 何かに強く引っ張られる感覚が走った。視界がぶれ、迫ってきていた槍を微かな視野で見送る。次に見えたのはブロンドのメイドの顔だった。

「どうして此処に……」

「助太刀に参りました」

 ペテローニは無表情でそう答えた。

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