害獣駆除
もはや妖怪の侵略は誰の目にも見えるものとなっていた。堂々と街中を跋扈する彼らを人々は奇異と恐怖の目で見ていた。
「あー、だりぃなあ。どこにいんだよ、お姫様は」
「いいじゃねえか、見つかんなくたって。こうやって人間どもの世界で好きにやれるんだ。姫様よりも、人間で遊ぼうぜ」
「確かに。せっかく皆の注目の的になってんだ。期待に応えて、ひと暴れすっぞ!」
妖怪たちは奇声を上げて、人々に襲い掛かろうとする。人々は危機を察知して、逃げていくが、恐怖しきって逃げることも動くことも出来なくなってしまった女性がいた。
それを見つけた妖怪たちは不気味な笑みを浮かべながら女性ににじり寄っていく。
焦らす様に詰めていく妖怪たちだったが、彼らの足を何かが止めた。妖怪たちは足元を見ると、小さな式神が縋り付いていた。
「げっ、これって……」
「みーつけた」
妖怪たちは後方から聞こえる声に反応した。そこには白髪で鮮血のように赤い目の女がいた。
「なんだこいつ?」
「あっ、キミたち札付きなんだ。そうかあ……」
赤い目で妖怪に付いた札を観察しながら、零子は言う。
「これは私の中の決め事なんだけど、一回札付けられてるのにまた人間のとこに来ちゃう妖怪って更生の余地ないと思ってるの。だから、キミたちはもうお里には返さない。此処で死んでもらうね」
妖怪たちは零子の言葉に背筋が凍り付く思いをした。軽く言っている口ぶりなのに、それには明確で強い意思が感じ取れた。
零子は腰に下げていた鉈を手に持ち、戦慄する妖怪たちに近付いていく。
「痛くないように頑張るから、大人しくしててね」
妖怪たちはその言葉に何も返すことが出来なかった。動くことも喚くことも出来ず、零子の言う通りに大人しく首を落とされていった。
「……隊員からの報告があります。出現した妖怪に神宮寺さんが仰っていた特徴を持った者はいません。代わりにどの個体にも札のようなものが付着しているようです」
零子は血に塗れた手でマイクのスイッチを入れた。
「ありがとうございます。討伐状況はどうなってますか?」
「討伐自体は苦戦もないようですが、数が多すぎて対処しきれていません。一般人から妖怪の存在を秘匿にするのも困難になっているかと」
「それはもう仕方ありません。いずれ、そうなる運命でしたから。今はただ、迷惑な害獣を駆除することだけに注力しましょう。それと、門馬隊長に伝えてもらいたいことがあります」
「なんでしょうか」
「札付いてるのは殺しても問題ないんで遠慮なくどうぞ、と」
「……了解です」
オペレーターとの通信が切れると、零子は何処からか集まってきた式神たちを一つ一つ、じっくりと観察する。式神たちは不思議な身振り手振りで零子に何かを伝えようとしていた。
「どういうこと?」
式神の持つ情報を理解し、零子はそう呟く。
札付きの集団は以前、縁たちを襲った連中と見て間違いない。彼らの侵攻はなりふり構わず天音を狙いに来たということだ。そしてそのなりふり構わない行動に、人間の幇助があると式神が伝えてくれた。
大所帯の札付きを、零子の監視する彩角市の中心部まで見つかることなく連れてきたのは、複数の車だという。車種もナンバープレートもバラバラな車の中から札付きたちが放たれた様子を式神たちは目撃した。運転していた人間は彼らを運び終えると、すぐに去っていったようだ。
考え込む零子の前に、遅れてやってきた式神が慌てた様子でジェスチャーを見せた。零子はそれを見て、顔を強張らせた。
「舐めたことしてくれる……」
式神を先導させて、零子は全速力で走る。強張っていた顔は怒りに満ちた表情に変わっていた。