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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
札付き
176/253

役目を終えて

「うん、映像もちゃーんと取れてるね。ご苦労様、眼鏡返すねー」

「返さなくていいです。普通の眼鏡があるんで」

 寿々子はピンク髪の女に眼鏡を突き返した。その眼鏡はレンズに特殊な加工がされているらしく、ビデオカメラのようにレンズを通して映像を撮影することが出来た。その機能により、木見浜公園で起きた事件の顛末を楽に知らせられた。

「カートリッジは問題ない感じだね。それと、妖怪ちゃん自身も使えるってデータも取れたのはラッキー。ただ気になるのは、これかな」

 パソコンのディスプレイには修羅の最後が映されていた。女は炎の一端をどぎつく装飾されたネイルで突いた。

「情報にあったアナタのパーソナルとこれ、なんか違くない?」

「柔軟性が高いんですよ、私のパーソナル」

「そう。なら別にいいけど。でもさ、最初からこれやっとけば何にも苦戦しなかったんじゃない?」

「見たなら分かりませんかね。死体が必要なんですよ。条件が重すぎるんです、これ」

「条件が厳しいと威力も増すの? ふーん、パーソナルってのはホントに奥深いな」

 女はデスクに置いてあった寿々子の眼鏡を何の気もなしに自身で身に着けると、映像を流し見した。

「妖怪もこんなに派手に暴れだしたか。悪意の影響がないとも言い切れないか? 記録では妖怪が悪意を得たというものはないけど、少なからず影響を与えていると見てもおかしくはない、か。いよいよ、世界の第二変革が訪れるみたいだ。ノロノロしてられないよ、アンジュ」

 女はぶつぶつと独り言を呟くだけになった。寿々子は自分の存在が彼女から消えているような気がした。もう用済みなのだろうし、一声掛けて去ることにした。

「じゃあ、私は帰りますね」

「あー、うん。ありがとね。引き続き彼のこと、宜しくー」

 言われなくても、と言葉を返しそうになったが飲み込んだ。そうして帰路に着いた寿々子だったが、外はもう日が落ち切って暗闇に支配されていた。


 街灯が寿々子の足元を照らすが、その頼りない明かりに寿々子は不安を覚えた。

 結果的に部員たちは全員無事であったものの、凄惨な現場を見せてしまうことになってしまった。特に縁には多くの惨い死体を目に焼き付けてしまっただろう。それが彼の心に残り続けないことを祈るしかない。寿々子は木見浜公園で起きたことを思い返して、後輩部員たちを心の中で労わった。

 彼らのことばかり考えていたせいか無意識で歩いていた。横断歩道に差し掛かっても不思議とそれは変わらず、信号が赤になっているのにも気付かずに渡っていた。

 大型のトラックが交差点に侵入してきていた。トラックの運転手には寿々子が見えていなかった。寿々子もまた、トラックの存在に気付いていない。トラックは速度を落とすことなく交差点を通過していこうとする。

 トラックは何事もなかったかのように過ぎ去っていった。横断歩道の先では訳も分からぬままに倒れ伏す寿々子と、その背中に式神が貼りついていた。青に変わった横断歩道から寿々子を追う影があった。

「間に合ったあ。怪我はない?」

 影の正体は零子だった。零子は式神を使って、寿々子をトラックとの衝突を回避させていた。

 寿々子は何が起きたのかを理解できずにいた。翻って零子を見るが、何も飲み込めていない。

「あー、先輩ちゃんだったんだ。先日はエニシがお世話になりました」

「じ、神宮寺零子! なんで此処に……」

「ぜろ子って呼んでってばー」

 零子は頬を膨らませて抗議した。

「ま、それより、先輩ちゃん。中々にえぐい呪われ方してるね」

「の、呪われ?」

 零子は真紅の瞳で寿々子の体を観察していた。

「うん、呪いだよ。さっきボーっとしてたでしょ? それって、トラックに轢かれるように仕向けられた呪いなんだ」

「そんな……」

 寿々子は漸く自分に起きたことを理解してきた。そしてその呪いが何処から来たものなのか、なんとなく察しがついた。

「あの鬼、修羅のせい?」

「鬼! そりゃこんな呪いも掛けられるわけだ。どうしたものかな……」

 零子は眉間に皺を寄せて考え込んだ。少しすると、結論が出たのか明るい顔に変わった。

「分かった! その呪い、私が貰うね」

「貰う? ただ解けばいいんじゃないの?」

「それが私って解呪のやり方しらないんだよね。かといって放置するわけにもいかないし、だから一旦私が預かります」

「いやそれにしても、どうやってそんなことを……」

「出来るんだよねえ。私って世界一、不幸と不運の扱いに慣れてるから」

 零子は目を閉じて、寿々子に手を翳す。手のひらは何か目に見えないものに引かれるように揺れ続けると、ある一点でピタリと止まった。

 その手は寿々子の下腹部に伸びた。服の下をまさぐると、そこから何故か鉈が出てきた。零子は目を開けて、手に取った鉈を見た。

「こいつだね。オッケー、もう先輩ちゃんは安全だよ」

「私、なんでそんなもの持ってたの?」

「呪いって形があるようでなかったり、ないようであったりするものだから。これはあんま気にしないで」

 鉈の刃が見る見るうちに伸びていた。伸び終えると、鉈は修羅が持っていた物と同じ大鉈になっていた。寿々子はそれを恐々として見ていた。

「呪いなんか引き受けて大丈夫なの? 貴方の身に何か起こるんじゃない?」

「言ったでしょ? 不幸と不運の扱いには慣れてるって。心配いらないから、早く帰りな」

 零子に言われるがまま、寿々子はその場を去っていこうとした。去り際に零子が思い出したかのように言葉を掛けた。

「今度、ウチに遊びに来て。色々話したいことあるから」

 寿々子は黙って頷いた。

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