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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
札付き
173/253

殺戮の矜持

 天音と修羅の交戦は一方的なものとなっていた。修羅の殴打は止まることなく天音を襲い、天音はそれを防ぎきれずに体中を痛めつけられていた。

 縁はそれを黙って見ているだけだった。助けに行かなければならないのは明らかなのに、二の足を踏んでいた。

 縁を躊躇わせていたのは修羅だ。修羅は今まで戦ってきた者と違った。それは強さという指標ではなく、彼の意思だ。辺りに散らばる死体を見て、それが何なのかを読み取ることができた。

 修羅は戦いそのものに目的を持っていた。更に言うならば、殺すことが目的であるように思える。戦いや死を手段や過程として捉えるものは多くいた。しかし、修羅は戦うことに執着している。その執着が自分に向くことを縁は恐れていたのだ。

「うっわあ、やっぱ修羅の兄貴は強いな。狐の姉ちゃんも頑張ってるけど、止めらンなさそうだ」

 縁は背後に銀次がいることに今さら気付いた。

「アンタは戦わないンすか? このままじゃ狐の姉ちゃん、殺されると思うンすけど」

「僕が何を出来るっていうんだ。加勢に行ったって、天音の邪魔になる。邪魔をするだけして、殺されるんだ」

「ンじゃ何のために此処にいるンすか?」

 銀次の言葉が胸に刺さる。縁は怖がってるだけで、手も出せない弱い自分が嫌になった。

 答えを出せずに俯くと転がる首が2つ、目に入った。1つは妖狐のもの。もう1つは人間のものだ。なんとなく2つの首を見比べてみると、ある違いに気付いた。

 妖狐の顔は殴られた痕がいくつもあり腫れ上がっている。反対に人間の方は一切の傷がなく、恐怖に満ちた表情しか残っていない。他に落ちている顔を見てみると、妖狐ばかりが無残な殺され方をしていて、人間の方は無傷で首を刎ねられているだけだった。

 妖狐と人間で殺し方を変えているのだろうかと思ったが、人間の中にも殴られた痕があるものがあったし、妖狐の中にも傷がないものもあった。縁は何かしらの法則を読み取ろうとした。

「まだか。まだ折れないか」

 縁が思考を巡らせている間、天音が修羅に強烈な一発を貰った。縁も修羅の声で気付き、顔を上げる。

「早く首を刎ねさせろ。鉈が錆び付いてしまうではないか」

 修羅の言葉に縁は答えを見つけた。修羅は殺すこと、いや首を刎ねることに絶対的な矜持を持っている。それは無抵抗な者の首を刎ねること。抵抗しない者は即座に首を刎ね、抗う者は甚振って抵抗する気力を奪ってから首を刎ねる。そしてその甚振りには鉈の刃は使わない。鉈を仙雷沱禍の刃を受け止めることと、柄で殴りつけることにしか使っていないことがその証拠だ。

 つまり抵抗する、戦う意志さえ絶やさなければ殺されることはない。天音との圧倒的な力の差を見せつけても殺せずにいるのは、天音の戦う意志が消えていないからだ。それがなくならない限り、天音は殺されない。だが、その前に殴打によるダメージが積み重なり死んでしまうかもしれない。

 答えを見つけた途端に、恐怖が消えた。縁は自分の浅ましさに腹が立ったが、同時に感謝もした。これで心置きなく戦いに加われる。天音を助けられるようになったのだから。

「おい、殺人鬼」

 修羅の顔が初めて縁に向いた。額の札に遮られていながらも、その両目は縁を品定めするように捉えていた。

「貴様など後でも良かったが、今すぐ死にたいというのなら殺してやろう」

「罪のない人たちを殺してタダで済むと思うなよ。二度と人の前に出てこられないようにしてやる」

 縁は強がりに近い言葉を吐いた。それが戦う意志を持つことの表明になるはずだからだ。修羅がそう汲み取ってくれるなら即座には殺されないだろう、と考えていた。

 思惑通り、修羅は鉈を逆手から持ち替えることはなく、刃を縁に向けようとはしなかった。縁は指の先からコードを発現させる。修羅はそれを視認しても尚、悠然としていた。

 コードが修羅の額に向けて伸びていく。修羅は鉈でそれを弾き落そうとするが、鉈をすり抜けて額に刺さった。しかし、札を外して額そのものにコードは刺さった。

 その瞬間、縁は今までにない感覚に襲われた。自分の頭の中に次々とヴィジョンが流れ込んできた。

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