鉢合わせ猫
妖狐の気配はコスモスの丘に続いていた。しかし、その気配は次々と減っていた。更には鼻を衝く血の匂いが天音の不安を大きくする。丘の上に彼らがいるとして、自分が望む形で立っていると天音は思えなかった。
「んぎゃ! 人間! と妖狐!」
丘の方から転がり落ちるのではないかという勢いで猫の妖怪が下りてきた。猫は勢いを殺せず天音にぶつかりそうになるが、天音は猫を蹴飛ばして衝突を防いだ。
「痛っ! な、なにしやがるっ!」
「蹴っただけ。突っ込んでくるのが悪い」
猫は痛がりながらも天音にガンを飛ばしていたが、急に我に返って天音にしがみついた。
「ンなことより、大変なンだよ。修羅の兄貴がやりたい放題してるンだ。誰だか知らねえけど、兄貴を止めてくれよ」
天音は上で起きていることを即座に理解した。そしてそれを敢えて口にした。
「その修羅とかいうのが、妖狐を殺してるの」
「そうだよ、修羅の兄貴が雇い主の妖狐たちを殺してンだ。アンタも妖狐のお仲間だろ? あいつら助けないとヤバいンじゃないか?」
「エニシ」
天音は振り返り、縁を見る。
「妖狐はもう放っておいても全滅する。だから、私のしたいことはもうない。でも、血の匂いの中に人間のものが混じってる。たぶん、修羅とかいうのは人間も殺してる」
「無差別に殺してるってことか……」
縁はどうすべきか考えた。修羅は丘の上で殺しを終えたら、街に降りて再び人々を殺すかもしれない。そうなった場合、真っ先に修羅を止めるのは教団だろう。最も信用できない連中に殺人鬼を任せるのは癪に障る。それに教団が修羅を利用しないとも考えられない。だったら、自分たちで修羅を止めるべきだ。
「止めよう。これ以上、被害が広がらないようにしなくちゃ」
「分かった。エニシがそう言うなら私も戦う」
天音と縁は丘の上に向かって走り出した。すっかり無視された猫、銀次は2人の後を追う。
「おい待て、置いてくなよ! 大丈夫なンだろうな? ちゃんと止めてくれるンだろうなー?」