ご乱心
コスモスの丘に蜻蛉返りすることになった夜凪と銀次は、再びの惨状を目の当たりにすることになった。
鮮血に花弁を濡らすコスモスと数多の死体。管理センターの死体と同じく、頭と胴体が綺麗に分離したそれは、人間のものだけでなく、妖狐たちのものもあった。
丘の頂上には修羅と妖狐たちが戦っていた。妖狐たちが連携して修羅を翻弄しようとしていたが、修羅は苦にする様子もなく、大鉈の柄で一人ひとり殴り倒していた。
「何をしているのです! やめなさい、修羅!」
「人間は殺し終えたのだ。お望み通り、狐狩りをしているのだが?」
「笑えない冗談を言ってくれますね」
夜凪は声を震わせて言った。好き勝手暴れ回られて、戦力さえも削がれては我慢できようはずもない。修羅を抹殺せんとする妖狐たちに、夜凪も加わった。
「札付きなど信用すべきではありませんでした。今此処で貴方を殺し、狠山魔も我ら妖狐が潰してやりますよ」
「落とす首が1つ増えたか。喜ばしいことだ」
修羅の額の札が風に揺らぐ。妖狐たちに包囲されながらも、口元に微かな笑みを浮かべて臆する様子もない。
妖狐たちの更に外側から、銀次は思いもよらぬ事態に混乱しつつも戦いを見ていた。
「雇い主と喧嘩……これってもしかして、親分に怒られる? それだけはマズい。誰か、誰でもいいから助けを呼ばねえと」
銀次は慌てて丘を下っていった。何処に向かうべきかなど考えている暇はなかった。何処かにいる誰か、最初に出くわした奴でいい。そいつが話の分かる奴で、喧嘩を止められる力を持つ奴であることだけを祈っていた。