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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
札付き
169/253

狐火

 田破澱々は現れては消える火の玉に羽虫を見るかのように些細な視線を送るだけだった。意に介する必要性などない。それが火の理なら自分の得意とする水の理で簡単に消失させられる。矮小な火の玉に用心など不要だと判断していた。

「戦い方を変えても無駄だぞ。お前の攻撃なんか痛くも痒くもないからなあ」

「今までのとは違うから。その火の玉がお前の命を吸い尽くす」

 田破澱々の目の前に、小さな火の玉が浮き上がった。田破澱々は少し驚いたが、反射的に口から水を吐き出して火の玉を消した。

 遮られていた視界を取り戻すと、耳元で炎が揺らめく音が聞こえた。目だけを横に向けて確かめると、顔の横に火の玉が浮かんでいた。それをまた水で消すと、同時に火の玉が腹の前に、それも消すと今度は背中に、と消しても消しても火の玉はしつこく現れた。

 田破澱々は何度も出てくる火の玉に苛立ち始めていた。いつの間にか火の玉を自分から追いかけていて、理も使わず手で払っていた。田破澱々の目には火の玉しか映っておらず、他の何物も彼の世界には存在しなくなっていた。

「狐火に惑わされたら最後。元の世界には帰ってこられない」

 天音は木の陰に隠れていた縁たちと合流し、何処かへと去っていく田破澱々の背中を見ていた。

「幻術みたいなもの? でもあのまま放っておくのも危険じゃない?」

 寿々子は天音から空のカートリッジを受け取りながら聞く。

「水の理源を感じる方へ向かわせてる。多分、池があるんでしょ。そこに落とす」

「溺れさせるんだ。エグイことするね」

「普通だよ、妖怪としては」

 2人が話している間に縁の頭痛は治まった。木を支えにして自力で立ち上がろうとすると、天音が手を差し伸べた。

「大丈夫。もう平気だよ」

 その手を借りずに立ち上がりきる。気怠さが少し残っていたが、体に不調はなく動くのには支障がなかった。

「赤羽先輩と明を助けられたんだ。早いとこ此処から脱出しよう」

「な、なあ。皆普通に受け入れてるけど、この女の人、誰だよ。つーか、縁も寿々子先輩も理使ってるし、あの化け物たちも……」

「それは後で説明すればいいでしょ。私と砂和も理解が追いついてないわけだし、落ち着いたら、話してもらった方が良い」

 海里はそう言って明への説明を完全に省いた。それでも納得のいかない明は説明を求めようとしたが、天音が喋りだして口を挟む猶予を与えなかった。

「まだ妖狐が残ってる。出来れば、懲らしめておきたい。二度と私の前に現れないように」

「じゃあ、明たちには先に逃げてもらって、僕と天音で妖狐と戦おう。赤羽先輩、明たちを頼めますか?」

「うん。でも、2人だけで平気? またあのタヌキみたいに強い妖怪が出てきたら……」

「心配はいらない。次は出し惜しみしないでやる」

 それは仙雷沱禍を使うという意志表示だ。妖狐たちに圧倒的な力を見せることで、自分を殺すことも仙雷沱禍を奪取することも不可能であると思わせるためにも本気で戦う必要があった。

 それ故に、縁にも先に脱出してもらいたかった。縁の手を借りずとも妖狐を蹴散らすのに苦労はしない。寧ろ、危険な目に合わせてしまう可能性もある。しかし、縁は絶対に付いてくるだろう。今の縁は『何か』に囚われていた。彼が一度も口にしない『何か』を知りたい、という思いも天音にはあった。

 寿々子たちと別れ、天音と縁は妖狐の気配がする方へと向かう。しかし、天音はその気配が近付き、鮮明になるにつれて不可解な現象を感じた。微かに過る不安を口にすべきか迷ったが、結局それを言うことはなかった。

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