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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
札付き
168/253

妖狐天音の力

 妖怪にも理の得手不得手がある。得意な理ほど、機微にその理源を感知し利用することが出来る。

 田破澱々は水の理を得意としている。その理源は戦地から離れた大きな池から得ていた。離れた場所から理源を取り込むのは並の妖怪に出来ることではない。それが出来るということは田破澱々の強さの証明でもある。

 天音にも得意な理がある。田破澱々と同じく水の理。そしてもう一つ、風の理だ。天音の瞬発力と跳躍力は風の理を使って補っているものだ。風の理源は空に吹く風から得ている。天音はどれだけ穏やかな空からでも、充分に力に変換できる才を持っている。

 泥で足を取られていても、風の理でまともに動くことは出来た。田破澱々の吐く鉄砲水を躱しながら接近し、攻撃として風の力を使う。

 手のひらに溜めた風のエネルギーを、腕を押し出しながら放つ。風圧で田破澱々が仰け反ると、今度は水の理を使う。田破澱々同様、池から理源を得て術を放つ。

「穿ちの一滴」

 指先からにじみ出た水滴を、指を払って放つ。水滴は田破澱々の大きな腹に刺さった。小さく空いた傷穴からは微量の血が流れ出る。想定よりも小さなダメージだった。おそらく腹の中に蓄えられた脂肪が鋭い滴の一矢を防いだのだろう。

 難なく体勢を立て直した田破澱々は短く太い腕で天音を薙ぎ払った。体格に見合った怪力に天音は吹き飛ばされて、木の幹に体を打った。

「思ったより強くねえなあ、妖狐のお姫様よお。すばしっこいだけじゃねえか」

 天音の顔色は変わらなかったが、痛みは確かにあった。立ち上がるのに時間を要したが、また田破澱々に向かっていく。

 速さでは勝るものの、決定打がない。続いての攻撃も掠り傷を与える程度で、田破澱々を弱らせる一撃を与えることが出来ていなかった。逆に天音にダメージが蓄積していき、攻撃の手が鈍っていった。

 縁にもそれが見て取れていた。これ以上、待ち続けていたら天音への負担が大きくなるばかりだ。焦りの中、縁はコードを発現させる。疲弊もダメージも少ないなら、自分の渾身の力で圧倒するほかにないと考えた。

 田破澱々は縁など眼中になかった。故に、クラックを当てるには充分な隙があった。札で覆われた大きく出張ったヘソに目掛けてコードを伸ばす。コードは何の障害もなくヘソに刺さった。表面の札に目に見えるほどの電流が発生するが、田破澱々は少し顔を歪めるだけだった。

「うおっ、なんかビリビリするな。あん? お前の仕業か」

 田破澱々はコードを乱暴に引き抜いた。その瞬間、縁は頭の中に激しい痛みが生じた。

 クラックは自ずからコードを抜いて能力解除しなければならない。他者によって強制的に解除されると、縁の脳に多大な負荷が掛かってしまうのだ。

 眩暈がするほどの頭痛に、縁は膝を突いてしまった。立ち上がる気力もなく、虚ろな目を田破澱々に向けるだけで精一杯だった。

「捨て身の一撃かなんかだったか? 残念だが、無意味だったなあ。また横槍入れられるのは面倒だから、くたばってくれよ」

 田破澱々は口の中を膨らませると、そこから大砲の弾のような水の塊を縁に向けて吐き出した。縁は逃げる力もなく、迫る水の塊を呆然と眺める。そのまま強大な水圧に押し潰されるかと思いきや、縁の前に炎の壁が次々と立ち並んだ。

 炎の壁は水弾を止めること叶わず消えていくが、壁に当たる度に水弾は小さくなっていき、縁の前に立つ最後の壁が水弾を受け止めて共に消えていった。

「ふう、間に合ったあ」

 縁の背後から寿々子が走り寄ってきた。炎の壁で縁を守ったのは寿々子だった。

「あのタヌキ、涼しい顔してくれてるじゃない。私は死ぬほど頑張ってあれを止めたっていうのに」

「赤羽先輩……くっ……」

 名前を呼ぶだけでも声が頭に響き、頭痛を増長させた。

「次のが来る前に避難しよう」

「待って」

 縁の肩を担ごうとする寿々子の前に天音が跳んできた。天音は寿々子をじっと見つめる。

「あの炎は貴方が出したの。どこから理源を持ってきたの」

「これだよ。この理源は特別でね。貴方たち妖怪でも遠くから感知できないし使えないように細工がしてあるの」

「それ、貸して」

 寿々子が持っていたカートリッジはほとんど空になっていた。

「いいけど、新品のを貸すよ。これじゃ、大した力も使えないし……」

「それでいい」

 天音は鞄から新しいカートリッジを取り出そうとする寿々子から半ば強引に空のカートリッジを奪った。赤い液体が底に少し浮いてるだけの物だったが、天音はそれから確かに理の源を感じていた。

「エニシと一緒に下がってて。後は私がやるから」

「う、うん。神宮寺くんを避難させたら私も戦うから、それまで持ちこたえてて」

「心配いらない。これで勝てるから」

 天音の周りに小さな火の玉がいくつも浮かんだ。火の玉は浮かんでは消えてを繰り返し、現れる度に天音の傍から遠ざかっていった。

 寿々子は天音の自信を信じられずにいたが、縁を逃がすことを優先してその場から逃げた。天音は一瞬カートリッジに視線を落とした後、田破澱々を見た。

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