契約
手渡されたのは赤い液体で満ちる長方形の容器だった。
「これが理源? 科学の実験で使うものにしか見えませんけど」
「まあ普通、理源って言ったら源石を想像するからね。そう思うのも無理はないかな。でも、このカートリッジはその源石よりも遥かに使い勝手が良いものに仕上がってるの」
ピンクの派手な髪をした女は得意げに言う。
「数年の研究、実験の末に源石から理源を分離し、液状化させることに成功。それをこの特殊容器にぶち込んで出来た、次世代理源『カートリッジ』。持っていれば分かるでしょ? 源石よりも軽いし、嵩張らない。その上、その特殊容器は液体の理源を遮断せずに容器から直接、所持者へと理源を取り込ませる。使った分だけ液体はなくなるから、目で見て後どれくらい理源が残ってるかも分かるし、空になった容器は再利用できる。こんなスーパー凄いものを発明したアタシってば天才すぎなーい?」
「凄いのは分かりましたが、なぜこれを隊員たちは使わないんですか? 私が見ている限り、彼らは源石を使っているようでしたが」
「だって、ちょっと前にやっと完成したんだもの。だから、これは試験ってワケ。アナタが実際に使って、問題なければ現場で採用! まあ、アタシが作ったんだから問題なんてあるはずないんだけど」
「わざわざ、私である必要があるんですか? 外部の人間ではなく、組織の中で試せば良いでしょうに」
「それなのよ、それ。相手、妖怪なんでしょ? 理論上は大丈夫なんだけど、実際に試さないわけにはいかない機能があるの。なんとこのカートリッジ、理源を感知させない機能も付いてまーす。妖怪って、僅かな理源も感知して利用できるって話じゃん? だから、対妖怪戦って源石持ってたら、相手にそれを利用されちゃって不利になっちゃうでしょ。でも、これは所持者以外には絶対に理源を取り込ませない。その上、理源を持っていることを感知されないから、ただの一般人だと勘違いさせられる。相手を油断させてからの不意打ち、なんてことも簡単に出来ちゃうかもね」
「じゃあ、彼のキツネさんにも気付かれないと?」
「ご明察。万が一何もなければ、アナタは正体を晒さずに済む。そうなったら、別のとこで試験をしなくちゃいけないけどねー」
「はあ、思っていた以上に役割を背負わされてしまいましたね。初めは彼の監視だけを頼まれていたのに」
「想定外なことが起きすぎてるみたいだね。でも、アンジュはあの子と違っていずれそうなることを予想はしてたみたい」
「彼らの中でも意見の食い違いがあるんですか?」
「知らない。アタシはその件に関しては部外者だし。アナタはどう思ってるの? スズコちゃん」
寿々子は少し考えた後、こう答えた。
「神宮寺くんの意思を尊重します。それだけです」