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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
札付き
162/253

苦痛を負ってでも

 疾風丸の飛行における癖、それは旋回が必ず時計回り方向で行われることだ。札に覆われた左翼が動かしづらいのかやはり痛みが生じているのか、はたまた翼にも利き手のようなものが存在するのか、真相は不明だが右翼に負担が掛かる時計回りの旋回しかしていないのだ。

 そして、その旋回が必ず行われるのは雷が命中しそうになった時と、急降下後の浮上である。その2点において、疾風丸の飛ぶ角度、方向は画一のものになっている。すなわち、旋回のタイミングを見計らって、攻撃を飛ぶ方向に置いておけば確実に命中するということだ。

 旋回をした直後にもう一度旋回するのは不可能であるはず。この隙は絶対に消すことが出来ない。それに気付いた縁は自分がすべきことが何かを考えた。

 急いで天音に伝えるべきか? 天音とは離れた位置にいるため、声を張らねば聞こえないだろう。敵に聞かれてしまったら警戒されてしまい、思うようにいかなくなってしまう。ならば天音の元に行くべきか? これは天音に動揺を生み出させてしまうし、自分が狙われる危険もある。

 取るべき行動は1つしかない。自分が攻撃することだ。幸いにも遠距離攻撃に向いている能力を自分は持っている。

 自身への副作用など気にしている場合ではない。既に疾風丸は天音に向かって急降下していた。

 疾風丸の速さを予測し、天音は雷を落とした。命中した、と思ったのは天音だけだった。空気を裂く音と共に落ちた雷を疾風丸は寸前で回避した。疾風丸の持ち味は反射神経の良さに他ならない。初撃の静雷も、その反射神経で奇襲に気付き回避することが出来た。

 この不意の雷も同様、直前で雷に気付き、反射神経と空に揺蕩う風の理源を使った飛行能力の増強で回避しきった。

 そしてその回避の旋回を縁に読み切られた。しかし、縁が狙っていたのは疾風丸の攻撃後の浮上の旋回であり、予測の甘さが功を奏して早く出しすぎた攻撃がたまたま命中したに過ぎないが。

 電気信号を伝えるコード、縁のパーソナル『クラック』はコードを相手の頭に刺すことで、自身の心の理を電気として流し、脳の情報伝達を阻害させる。頭に刺さらないと効果を発揮しないが、今回は見誤った結果左翼に命中した。

 失敗に終わったかのように思われたが、贈られた電気信号が札に作用した。札の効力が増し、疾風丸の全身に凄まじい電流が走る。

 疾風丸は耐え切れず地面に落ちた。体が痙攣し、顔を大きく歪ませたまま気絶していた。

 天音は表情なくコードの先にいる縁の方を見た。

「エニシ」

 縁はコードを解除し、膝をつく。今まで感じたことのない空虚感を覚え、汗が止まらなかった。

 夢の中で見たあの映像が頭の中に過る。今なおその顔にはノイズが掛かっていたが、それでもその光景だけは鮮明だった。

 激しい動悸と息苦しさに縁は立ち上がれずにいた。

「神宮寺、大丈夫?」

 海里の声が聞こえると、縁の頭の中からあの映像は消えていた。徐々に動悸も治まり、落ち着きを取り戻しつつある。天音も縁たちの所へと走り寄ってきた。

「エニシ」

「ああ、ごめん。慣れないことしたから、負荷がすごくて。もう、平気だから」

 縁は長く息を吐くと、ゆっくりと立ち上がる。縁自身が思っていた以上に体は言うことを聞いてくれていた。精神的な負荷だけで済んだのは救いだった。

「あいつは、もう動けなさそうだね」

 縁は痙攣し続ける疾風丸を見た。

「うん、エニシのおかげであいつを倒せた。ありがとう」

「天音に頼ってばかりじゃ申し訳ないから。これからは僕も戦うよ」

「それは駄目。辛い思いをしてまで力を使わなくていいよ」

「いや、戦う。甘えてばかりじゃ、前に進めない」

 縁はあの映像をもう一度見たかった。そして確かめたいのである。そこにいる人物の正体と、自分の中にある空虚な部分に生じた歪みのようなものを。どんな苦痛を背負ってでも、確かめなくてはならないものだった。

「休んでる暇はない。赤羽先輩と明を探しに行こう。まだ敵は残ってるかもしれないし」

 縁は天音たちの心配を他所に、1人で走り出した。動いていないと、不安に押し潰されるような気がした。それが何に対する不安なのかは自分でも分からなかった。

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