怒りの妖狐
「……何故だ。何故これほどまでに手古摺らされているのだ!」
唾を激しく飛ばしながら怒号を飛ばすのは、妖狐忍者を統べる男狐の渦流武だ。
「我々も総力を挙げて天音様を追っています。潜伏している場所も判明しているのですが、攻めあぐねている状況にあります」
「それは何度も聞いている! だから、さっさと全員で掛かって殺してしまえばよい話だろう」
「それが……問題が山積しておりまして」
渦流武は伝令の妖狐を睨む。妖狐はそれでも自我を押し殺し報告を続ける。
「天音様が潜む彩角という地には、手練れの陰陽師がいるようでして、我々の侵入が完全に阻まれております。加えて、天音様に助力する人間もおり、我々だけでは容易に天音様に近付けなくなっています」
「揃いも揃って無能ばかりか! どうしてくれる、日に日に垓冥斉様の機嫌も悪くなっているというのに!」
「辛うじて侵入に成功した者もおりまして、それに監視は続けさせておりますが……」
「黙れ!」
渦流武は空気を裂くような怒鳴り声を上げると指を噛み苛立ちを募らせた。指から血が滴り始めると冷静さを取り戻し、口から指を離して妖狐にこう言った。
「なりふり構っている余裕はない。お前、『狠山魔』に接触しろ。奴らを使って天音を追い込め」
「……渦流武様の意のままに」
妖狐は即座に退室し、渦流武はまだ張り詰めた空気の残る部屋に一人残った。
「逃がさんぞ、天音。貴様を殺して、俺が長になるのだ……」