好奇心の試し
目を瞑りながらケヤキに手を当てて幾ばくかの時が過ぎた。不意に人の気配を感じ、蒼見は目を開いた。
体に無数の棒が刺さった男が息も絶え絶えになって近づいてくる。彼の足は木の根元で眠る子狐に向かっていた。
「お前が羽黒だな」
蒼見は羽黒の進路を塞ぐようにして前に出た。
「……誰だ?」
羽黒の問いかけに応えることなく、蒼見は接近していく。近くで見ると、羽黒の額は釘のようなものが刺さっていた。それが理で作られたものであることに気づくと、羽黒の顔を鷲掴みにし、額の釘を無理やり押し込んだ。
羽黒は目を反転させ意識を失った。蒼見は手を離すと、前のめりになる羽黒を避けて、そのまま倒れる様を見下ろした。
倒れた際に羽黒の服から懐中時計が零れた。蒼見はそれを拾い、じっくりと観察する。
「これが例の物か……なるほど、奴が欲していたのも頷ける」
時計の仕組みを理解すると、その力を羽黒に使った。傷だらけだった体は元に戻り、至る部位に刺さっていた釘も消失して羽黒は目を覚ました。
「……何が目的だ」
羽黒は立ち上がって蒼見に問いかけた。
「傷の巻き戻しならばこの程度の理を使えばよい、と。問題は限界値だが……」
蒼見は羽黒の存在を認識していないかのように無視をして、熟睡する和吉に向かった。
「何をする気だ。やめろ!」
不穏な予感を覚えた羽黒が蒼見の肩を掴んだ。その瞬間、羽黒の視界は歪み、頭の中が霞がかっていった。
「お前は用済みだ。そこで寝ていろ」
羽黒の手は蒼見の肩から滑り落ち、体も静かに崩れて意識を失った。蒼見は振り返りもせずに和吉に近づいて、時計を見た。
「お前が只者でないことなど、一目で見抜いていた。だが、ここからは憶測でしかない。この力がそれを確信に変えてくれるか、1つ実験といこう」
時計の針が凄まじい速さで回りだす。蒼見の目は眩い光に包まれる和吉を瞬きすらせずに凝視し続けていた。