鍵の在り処へ
鳳学園で得た情報を元に、明天と飛跿乃は戸張がよく行っているという水ノ森神社という場所へ向かった。
その道すがら飛跿乃が脈絡もなく、明天に疑問を投げかけた。
「先生がさっき言ってた『陰陽連』ってなんですか?」
明天は嫌そうに大きな溜息を吐いたが、少しの間の後に気怠そうに答えた。
「過去の威光としきたりに縋った、陰陽師の残党どもだ」
「あまり良い印象を受けない言い方ですね。悪い人たちなんですか?」
「悪くはない。今も妖怪が架空の存在で済んでるのは、あいつらが人里に降りてきたやんちゃな妖怪を秘密裏に排除してるからな」
「そういえば妖怪って、人間の領域に入っちゃいけないって決まりがあったなあ」
「人は妖怪を忘れ、妖怪は人と関わらない。その密約も大昔の陰陽師が取り付けたものだが、限界ってのは来るもんだ。現に飛跿乃が俺のとこにのこのこやってきたんだからな」
明天は飛跿乃が被っている帽子を軽く叩いた。飛跿乃はおっかなびっくりした顔で明天を見上げた。
「陰陽連はその密約を死んでも守りたいと思ってる。自分らは老いていくばかりで、数少ない後継者には無理ばかり強いて……馬鹿な連中だ」
明天は浮かない顔でそう言った。飛跿乃はその表情の真意が気になって仕方なかった。
「先生は陰陽連のこと、嫌いなんですね」
「嫌いだな。じゃなきゃ、陰陽連から抜け出してなんかない」
「ええ!? それって、先生は元陰陽師ってことですか? 初耳です」
「聞かれもしなければ、言う必要もないだろ。だが、陰陽師ではなかった。陰陽師一歩手前までいったところで、抜けてやった。ざまあみろってな、ハハ!」
明天はいつもの顔に戻ると、それ以上は飛跿乃に答えることなく、欠伸を繰り返すだけになった。
欠伸にうんざりするほどになった頃に、目的地に到着した。鬱蒼とした木々に覆われ、朽ちかけた鳥居が立つ怪しげな神社だった。
「ここが水ノ森神社ですか。本当にこんなところに戸張君がいるんですかね?」
「いてくれなきゃ困る」
明天は臆すことなく神社に入った。鳥居を抜けると物寂しい境内が広がっていて、人の影すらなく木々が風で揺れる音だけがそこで息をしていた。
木々をすり抜けた風が境内に吹き、参道を横切っていくと、社務所らしき建物の窓にぶつかり、音を立てた。明天は導かれるようにして社務所に向かっていった。
引き戸となっている扉を無遠慮に開けて第一声、
「おい、和巳!」
と呼びかけるがどこからも、誰からも返事はなかった。
「戸張君はともかく、管理者みたいな人すらいないみたいですね」
「……いや、誰か来るぞ」
薄暗い廊下の先から微かに足音が聞こえてきた。それが姿を現すのを静かに待ち続けていると、角からひっそりと顔を出したのは2人が会いたかった人物だった。
「お師匠……」
明天は戸張との再会にまだ安堵できなかった。彼の痩せこけた顔と、生気のない声が深刻な問題を物語っていたからだった。