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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
星命夢現
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星の離反者

 垂葉からの指令を受けて蒼見は羽黒を探していたが、一向に彼を見つけることは出来なかった。

 当然ではあるが、情報が足りない。垂葉からは羽黒という名前と、自律理源が懐中時計の形をしていることしか教えられなかった。これでどうやって無数にいる人間の中から見つけ出せというのか。蒼見は半ば任務を諦めていた。

 蒼見は図書館にいた。ここで羽黒を探しているかというと、そうではない。ただ本を読み潰していた。人間が積み上げてきた歴史を知れば知るほど、彼らの罪の重さが如実に表れた。

 そこに怒りはなく、悲しみもない。自分たちの役割が『母』の望みを叶えること以外にないために、それを成すために不必要なものは排除されている。だが、蒼見は興味を持ってしまった。『母』を絶望させた人間という存在に。そしてもう1つ、人間と同等の知恵と力を持つ生物に。

 それに関して書かれた本は多数あった。しかし、結局は伝承や伝説止まりで、彼らがどういうふうに生まれ、どのような関係性を人間と築いてきたかなどは知ることは出来なかった。漁った本を棚に戻していると、やけに真新しい本が目に入った。

『妖狐は実在した!!』

 安い題名が逆に蒼見の興味を引いた。その本を手に取り、中を流し読みしていった。

 ――名だたる妖狐の中に、存在を隠蔽されたものが一匹いる。私は陰陽師の末裔と名乗る方から情報を得て、それを知ることが出来た。……都に災いを齎したその黒い狐は刹空さっくうと呼ばれ、数多の陰陽師たちとの死闘の末に討伐されたという――

 鼻で笑ってしまうような、陳腐な内容だった。著者を確かめると『民俗学者 木野由美子きのゆみこ』とあり、更にはこの本が自費出版したものであることに気づいた。

「誰がこんなものを紛れ込ませた」

 呆れた口振りで蒼見は呟いて本を戻そうとすると、本棚の隙間から視線を感じて手を止めた。

「久しぶりだね。蒼見」

 僅かに見える目元に見覚えはなかったし、声にも聞き覚えはなかった。分かるのは女であることだけだ。

「誰だ、お前は?」

「虹原」

 蒼見は全てを理解した。ニヤけるその目に刺すような視線を投げる。

「裏切り者が何の用だ? 俺を殺しに来たか?」

「まさか。執行者を殺しても無駄なことくらい分かってる。ちょうど良い機会だから、君を誘いに来たんだ」

 虹原は蒼見の反応を見ていたが、蒼見は全く揺るがずに視線を向けていた。

「私と共に世界を変えない? 君には可能性がある。他のカス共と違ってさ。一緒に新たな世界の神になろうよ」

 蒼見はつい、鼻で笑った。そのついでに、と言葉を返した。

「役割を捨てた者の末路か。人間のような夢を見るのだな、虹原。生憎、俺は自分の存在を十分に理解している。それを全うすること以外に価値などない」

 虹原の目が一層細くなった。

「君はあまり、自分が分かっていないみたいだね。まあいい、遅からず気づくはずだ。その時、君の方から私に会いに来てくれることを願ってるよ。お元気で、蒼見」

 虹原は去っていこうとしたが、何かを思い出したのか、小さな声を上げて戻ってきた。

「そうだ。もうすぐ最初の変革が訪れるから、見ておくといい。きっと君の心を揺さぶるはずだ。それじゃあ今度こそ、お元気で」

 虹原はいなくなった。最初の変革とは何のことか気にかかったが、それに関わる理由はなかった。

 蒼見は本を戻し、図書館を後にした。無駄な時間を過ごしたと猛省した。今は羽黒を探すことだけを考えるべきだ。それが使命。偽りの命を与えられた自分の生きる意味。

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