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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
星命夢現
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眠りに眠る

 明天は熟睡から目を覚ました。意識が朦朧とする中、いつものように布団から転がり出ようとするも、体が急に落ちてフローリングにぶつかった。

「痛え……」

 自分がベッドから落ちたことを認識すると、次第に現状と昨日のことを思い出してきた。


 昨日、明天と飛跿乃は戸張の住むアパートに着いた。戸張の部屋の呼び鈴を何度も鳴らすが、応答はなかった。

「おかしいですね。住所も部屋の番号もあってるんですけど。もしもーし、戸張くーん!」

「ったく、めんどくせえなあ。おい飛跿乃、代われ」

 明天は扉の前の飛跿乃を退けると、髪の毛を一本抜き、扉の鍵穴にねじ込んだ。ガチャリと鍵が開く音が聞こえるや否や、扉の取っ手を回して中に入ろうとした。

「ちょっと、平然とピッキングしないでください。身内とはいえ不法侵入ですから」

「うっせえ。いいから、さっさと付いてこい」

 飛跿乃は渋りながらも明天に従った。

 部屋に入るが、戸張の姿はなかった。ワンルームの部屋には簡素な机とベッドが設置され、生活感があまりにもなかった。

「和巳らしいっちゃらしい……ん?」

 明天は部屋の隅に鞄を見つけた。学生鞄のような形をしていて、中を確かめると案の定、教科書やらペンケースやらが出てきた。

「学校に通ってんのか? そんな連絡来てないが」

「戸張君からの手紙はここを拠点にして彩角市で羽黒君を探すってことを最後に途絶えてましたね。だから、それ以外にどんなことをしてたかまでは分かりません」

「だけど、変だな。今日は平日だし、まだ昼を少し過ぎたくらいだってのに、なんで学校の鞄が置いてある? 飛跿乃、クローゼット開けてみてくれ」

「は、はい」

 飛跿乃がクローゼットを開けると、そこには制服がしっかりと掛けてあった。

「制服、ありますよ。学校には行ってないみたいですね」

「学校をサボって閃を探してんのか? 分かんねえな、思春期盛りの行動は。まあ、いいか。待ってれば帰ってくるだろ」

 明天は大欠伸をしながらベッドに倒れ込みました。

「なかなか良い寝心地だ……」

「勝手にベッドで寝て……戸張君に怒られますよ?」

「和巳は寧ろ喜ぶね。師匠にベッドを使ってもらえるなんて、ってかんじで。飛跿乃も寝るか? ちょっとならスペースを分けてやる」

「結構です!」

 飛跿乃は顔を赤くして断った。

 それから明天は惰眠を続けて戸張を待ったが、夜になっても帰ってくることはなかった。

 飛跿乃は軽食を買って帰ってくると、明天が戸張の鞄の中を物色していた。教科書を床にぶちまけて、鞄の奥底まで手を突っ込んでいた。

「起きたと思ったら、何をしてるんですか?」

「何、って漁ってるんだ。おっと、これか?」

 明天が鞄から取り出したのは生徒手帳だ。表紙には校章が大きく描かれ、その下に『鳳学園』という文字が刻まれていた。

「鳳学園っていうのが、戸張くんが通ってる学校なんですね」

 飛跿乃はパンを食べながら、明天の肩越しに生徒手帳を眺めた。明天は手帳をパラパラとめくった後、もう一度表紙に戻って校章を睨んだ。

「結構なとこの学生になったんだな。まあ、いい。これで和巳が今まで何してたのか多少は分かった」

 明天は飛跿乃からパンをひったくり、一口で頬張ると、喉を詰まらせることなく一気に飲み込んでベッドに戻った。

「ちょっと先生!」

「騒ぐな。近所迷惑になる。俺はもう寝るから電気消せよ。朝まで起こすなよ、分かったな?」

「え、でも戸張くんのことは……」

「明日でいい。お前ももう寝ろ」

 何か考えがあるのか、それともただ寝ていたいだけなのか。飛跿乃には判断できなかったが、反発しても怒られるだけだったので素直に部屋の電気を消し、ブランケットに包まりながらフローリングで寝そべった。

 パンを取られてしまい、空腹が続いたが仕方ない。明日は早く起きて、残っている軽食を食べよう。そう誓いながら、無理矢理眠った。


 だんだんと眠気から解放された明天は体を起こし、辺りを見回す。

 飛跿乃の姿がない。トイレにでも行っているのかと思ったが、ふと頭の中に記憶の残滓を見つけた。

 今朝方、飛跿乃の起こす声で少し目を覚ました。ぶつぶつと急かすような言葉を吐いている中に、耳に残ったのはこれだけだ。

「先生がそうやってお布団から出ないなら、私1人で戸張くんを探してきます。学校なら何か手がかりがあるかもしれないので行ってみます。じゃあ、おやすみなさい!」

 語気が強かったが故に覚えていられたのだろう。おかげで飛跿乃が何処に行ったのかが分かるわけで、明天は自分の睡眠欲を褒める他なかった。

 同時に面倒事も増えてしまった。行き先は戸張の通う鳳学園。そこが普通の学校なら何も問題ないのだが、そうではなかった。

 戸張の生徒手帳に大きく描かれた校章。あれには明らかに理の力が宿っていた。その効力は弱いものだったが、仕組んだのは学校側の人間に違いない。戸張はその理使いと何らかの関係を築き、学校に籍を置いたのだろう。

 その関係がどうであれ、飛跿乃が1人で学校で行くことは不味い。妖怪が学校に侵入したとあれば、ただでは済まない。戸張がそこにいてくれれば問題はないが、そんな希望を抱いて安心するのは馬鹿でしかない。

 明天は軽く支度をして、部屋を出た。目指すは鳳学園。そこには飛跿乃と、戸張の行方を知る者がいる。面倒ではあったが、それが向かわない理由にはならなかった。

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