誰が為に我は在るか
ウィッチは白装束の集団が1人の男の死体を運ぶのを陰でこっそりと見ていた。
その死体と白い羽根の女たちが戦っている様子も遠くから観察していたが、次元の違う戦いに圧巻されていた。
そうして冷静さを取り戻せたところで自分がすべきこと、つまり利益を得られる選択を考えた。
白装束の集団は今回のテロ紛いの事件に関わっていそうな匂いを感じた。元々の雇い主である三福もこの集団の一員だと想定するなら、彼らは自分にとっての仇と言っても過言ではない。ましてや水雲もその一員だろうから、既に自分が友好的ではなく、逆に敵対心を持っていることは知られているだろう。そのような悪状況から彼らをダシにするのは困難だ。
一方で白い羽根の女側は、正体が掴めなさすぎた。ターゲットだった少年たちの味方と見るべきだろうが、それ以上は読めない。あのカードを使った力も不明瞭。強力な力を持っていることは明らかで、出来れば詠唱化させていただきたい。それだけでかなりの恩恵である。しかし、少年たちとは敵対していた関係。今ではそれほど敵対視していないが、その過去が少しでも不信感に繋がってしまったら、あの女は自分を傍に置いてはくれない気がする。
ウィッチは豆粒ほどにしか見えない英理たちを見ながら考えを巡らせた。巡らせる内にまとまらなくなったので、口に出して考えを整理し始めた。
「白装束とつるむのは不可能。だけど、お金は持ってそうなんだよねー。そこが惜しい。あの女の方は、頑張ればいけそう? 紅蓮君に口利きしてもらえれば……あっ、でも……」
「もしもーし」
背後から間の抜けた声が聞こえ、ウィッチは驚いて振り向く。そこには忘れられもしないアホ女がいた。
「……垂葉よもぎ」
その名を呼ぶと満面の笑みで垂葉は応えた。
「やっぱり覚えててくれましたね! さすが魔女と呼ばれるだけありますね!」
ウィッチは顔をしかめた。
「……あなた、何者?」
垂葉は笑みを崩さず、いつものように能天気な声で返す。
「何者でもありませんよ、私はね。必要なことを必要なぶんだけこなすんです。誰にも悟られないよう」
「もっと分かりやすく言ってくれない? あなたは怪しい団体側の人間? それともあの女の方?」
「括りが違うんですよ。私は人間じゃありません。言うなれば、ウィッチさんの中にあるあれと同義の存在」
「あれって……まさか悪意?」
垂葉の笑顔が少し崩れた。
「そうです。でも元が一緒ってだけ。私は『執行』するもの。母様の願いを叶えるためだけに存在しています。そして貴方も同じ。そのためだけに動く手足なんです」
「面白くもない冗談だね。わたしが手足? 誰かのための存在だっていうの?」
「難しく考えなくていいです。もう暫くしたら本能が理解します。だから今は1つだけ、頭に入れておいてください」
垂葉から笑顔が消え、別人のような顔つきと声で言う。
「害虫諸共、我を殺せ。全てを焼き尽くす蒼い炎、『ブルーフレア』で」