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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
世界と理と
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ダンデライオン

 痛烈な一撃を貰ってなお、頼人は攻撃を止めなかった。光の剣を発現して六藤に斬りかかるが、簡単にいなされては反撃の殴打と蹴撃で痛めつけられた。体に蓄積されていくダメージは痛みを感じることを忘れさせていき、体の機能だけを鈍らせていった。

 攻撃の手が緩くなった頼人を六藤は軽く蹴散らした。頼人は倒れるが、すぐに起き上がろうとする。しかし六藤に踏みつけられて動けなくなってしまった。

「真っ向から挑んできても無駄だというのが分からないか?」

 頼人は必死に足掻きながら六藤を睨みつける。六藤は足に入れる力を強めた。

「気概だけは死んでいないようだ。しかしそれだけでは私に刃は届かない。体力も理力も足りていない。それだけでなく知恵も身のこなしも半人前。唯一無二のそのパーソナルだが、足を引っ張る要素が多すぎる。お前は何もかもが未熟なんだ」

「黙れ!」

 頼人の叫びと共に、光弾が手から放たれる。しかし六藤に掠ることもなく、明後日の方向に飛んでいった。

「更に付け足すなら、感情的すぎる。自分をコントロールできないのは実に子供らしいとも言えるが。この私に挑むには5年は早かった。まあそれだと何もかも手遅れなのだがな」

「黙れって言ってんだよ!」

 溜まりこんでいた怒りは言葉となって木霊しただけだった。六藤は最後に力を込めて頼人を踏みつけた後、腹を蹴り上げて追い打ちした。

「遊ぶのももう飽きてきた。そろそろ終わりにしよう。さらばだ、少年」

 頼人の首を掴み上げて、力を加えていく。強靭な腕から逃れる術はなく、抵抗も命を無意味に削る行為でしかなかった。

 頼人は意識は朦朧としても六藤を睨み続けた。最後の一瞬までこの怒りをぶつけることだけが、頼人に残された抵抗だった。

 その無駄とも思える抵抗が六藤の何かに触れたのだろう。同じ様に睨み返して頼人を殺すことだけに意識が奪われていた。背後から急速にやって来る花凛には気付きもしていなかった。

 気合のこもった雄叫びと共に如意棒が六藤の脳天に振り下ろされた。鈍い音が気を失いかけていた頼人を起こし、体の自由が効いていることを気付かせた。

 元に戻っていく視覚が六藤と戦う花凛を目に移す。花凛は如意棒を使って奮闘していたが、その先端に異物が付いていた。赤い塗装の剥がれた如意棒に映える緑の大きな蕾だ。その蕾をハンマーの頭部に見立てて殴りつけるようにして戦っていた。

 おそらく強化されたのであろうその武器をもってしても、六藤を劣勢には追い込めなかった。花凛は牽制をしながら後退し、立ち上がれるまでに回復した頼人の傍に来た。

「頼人、聞いて。あのプロペラみたいのがあいつのパワーを強くしてるんだって。だからプロペラを壊せば、あいつも弱くなるはず」

「あれが……? 本当に?」

 頼人は眉をひそめて聞き返した。。

「ホント。ピーちゃんが言ってたから。とにかく作戦、プロペラに集中攻撃! いい?」

「う、うん」

 押し切られる形で頷いたが、視線は既にカジャに向けていた。カジャは狙われているとは露知らず、瓦礫の山や崩れて傾いたビルなどの周りをふらふらと回遊していた。

 標的の小ささから、遠距離から光弾で仕留めるのは至難だった。まずはカジャに接近しなければならない。頼人と花凛はカジャに向かっていくが、六藤が2人の前に立ち塞がる。

「何処に行くつもりだ?」

「お花摘み」

 花凛は冗談っぽく言った後、如意棒で六藤を突いた。蕾の部分を掴まれて防がれたが、花凛は両手に力を込めて押し切ろうとした。

 六藤は短く息を吐き、如意棒を押し返した。体勢を崩す花凛に拳を見舞おうとするが、横から伸びてきた光の剣に気付いて体を引かせてから頼人を長い足で払い飛ばした。

 花凛は如意棒を構え直して六藤の脇腹に目掛けて思い切り振った。渾身の一撃は六藤を蹌踉めかせることしか出来なかったが、その隙にカジャに向かって走った。

「この距離なら……ピーちゃん、伸びろ!」

「あいよ!」

 如意棒は呼応して見る見る伸びていった。蕾がカジャを捉えて背後の瓦礫ごと貫いたように見えた。崩れ落ちる瓦礫と土埃が奇襲の成否を遅らせる。花凛は如意棒を戻しながら、小走りで近付いた。

 視界が晴れていった。瓦礫にぽっかりと空いた穴が1つあった。しかし、カジャの姿は確認できなかった。

 風を切る音が上から聞こえた。花凛は見上げると、カジャがファンを懸命に回して逃げていくのを見つけた。

「あっ、待て!」

「待ては此方の台詞だ」

 カジャを遮り、六藤が上空から飛びかかってきた。花凛は如意棒で叩き落とそうとするが、六藤の飛び蹴りに力負けしてそのまま手痛い一撃を食らった。

 それを皮切りに六藤の連撃が花凛を襲った。痛烈な殴打が休みなく繰り出され、花凛は如意棒で防ごうとするがほとんどの攻撃を受けてしまっていた。

「キレが落ちてきてるな。限界が来てるのか?」

 六藤は余裕を見せるように問いかけるが、花凛から一言も返ってこなかった。如意棒での防御を払い除けて、花凛の腹に強烈な蹴りを入れた。後方に大きく吹き飛ばされた花凛にゆっくりと詰め寄る。

 花凛は不自由になりつつある身体をなんとか起こして如意棒を構えた。如意棒の先の蕾から黄色い花弁が見えていた。

「花凛ちゃん、あとちょっとだよ。頑張れる?」

「……やるよ」

 如意棒に短く応えて、花凛は六藤に向かっていく。力を振り絞って如意棒を叩きつける。六藤はそれを片腕で受けるが、予想を越えた威力に腕を引いて体を逃がそうとする。しかし、花凛は休むことなく如意棒を振り続けた。何度も避けられて地面を抉るが、抉れた跡は振る度に大きくなり、蕾も次第に開いていった。

 大地を揺るがす一撃が振り下ろされ、六藤の足場の瓦礫が崩れた。六藤は跳躍して避難し、花凛と如意棒を見た。花凛が担ぐ如意棒に大きな黄色い花が咲いていた。

「それがお前のパーソナルか」

 細かい無数の花弁が密集したそれはタンポポの花のようだった。しかし、その大きさはヒマワリがそれ以上のもので、妙な威圧感を放っていた。

「開花はしたけど、分かってるよね?」

「うん。全部は使わないであいつを足止めする。その間に頼人と合流してプロペラをやっつける」

「冷静だね、よしよし。じゃあ、やっちゃって!」

 花凛は如意棒を振った。それに応じて花弁が散弾のように発射され、六藤を襲う。小さな花弁に見合わない威力と速さで弾幕ができ、六藤はそれを防ぐのに手一杯になった。それに乗じて花凛はその場を退いた。空を見上げながら頼人とカジャを探した。

 空に向かって伸びる光の筋が見えた。頼人のものだろうと思い、それの下を目指し花凛は走った。傾いて倒れかけているビルの近くに頼人がいた。頼人は上空にいるカジャに目掛けて光弾を射出していた。

「無駄打ちしすぎ」

 花凛に気付き、頼人は攻撃を止める。

「花凛! ボロボロじゃないか。それにその花は……」

「ちょっとやり合ってたから。そんなことより頼人、あいつにめっちゃ遊ばれてるじゃん。見てよあれ、変な踊りしてる」

 カジャは遥か上空で挑発的な動きを地上にも見えるようにダイナミックにしていた。

「あんな高いところにいたら攻撃も当てづらいよ。発生で奇襲をかけようにも距離感が掴めないし」

「ビルを登っていこうにも時間が掛かりすぎるし、その間にプロペラに逃げられて下手すれば六藤も来ちゃう可能性もある、か。うーん……」

 悩んでいる猶予もあまりなかったが、花凛は知恵を振り絞り考えた。その間にカジャはビルの外れかけた看板に腰を掛けて、足をぶらぶらさせながら崩壊した街を眺めていた。

「そうだ!」

 急なひらめきに花凛は声が出た。続けざまに頼人にそのアイディアを伝える。

「ピーちゃんに頼人を飛ばしてもらおう。ダンデライオン効いてるからどんだけ高いとこでも飛ばせるはず」

「飛ぶって、まさか俺を如意棒でぶん殴って飛ばすのか?」

「違う違う。足をこう、上手くピーちゃんに乗っけて……」

 花凛は地面に如意棒の先端を付けて、頼人の片足をそこに乗せるように促した。

「そうそう。で、タイミングよくあたしが打ち上げるかんじ」

「なるほど……だけど、あいつを殺した後、俺は普通に落ちるよな?」

「看板のとこに掴まってればいいでしょ。後で助けてあげるから」

「そ、そうか。なんか不安だけど、それしかないならやるか」

 頼人は如意棒から足を外して呼吸を整えた。心を落ち着かせると、再び如意棒に足を掛けて花凛の顔を見た。

「せーのでいくからね。せー……のっ!」

 花凛の合図で頼人はもう片方の足も如意棒に乗せた。その瞬間、花凛は如意棒を力を込めて振り上げて、頼人を空へと打ち上げた。

 風を切り、空へと昇りながら頼人はしっかりとカジャを見据えていた。呆けているカジャは急速に接近する頼人には気付いていなかった。

 花凛のパワーの賜物か、カジャのいる看板まではスピードが緩むことなくたどり着いた。しかし、加減をしなかったせいで勢い余って看板を通り越してしまった。

 目の前を通り過ぎた頼人に気付いたカジャだったが、予想外だったのか動転して頼人を見ているだけだった。ようやく落下に至った頼人は光の剣を発現してカジャを狙う。

 剣はカジャの頭、ファンの中央に刺さった。激しく回っていたファンは何かが挟まったかのように歪に止まりギシギシと悲鳴を上げた。

 看板の縁に着地した頼人は、剣に刺さったカジャを持ち上げてビルの壁に叩きつけた。カジャは叩きつけられた瞬間に爆発し、内部に溜まっていた風の理を突風という形で吐き出した。

 突風に煽られ、頼人はバランスを崩した。足を外して落ちそうになるも、咄嗟に看板に掴まり、難を逃れたかに見えた。しかし、看板は大きな音を立てて外れて、頼人もろとも落下していった。空中でもがく頼人の目には地上で待つ花凛の姿が映っていた。

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