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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
世界と理と
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世界の終わりに立ち向かう者たち

 1人取り残された紅蓮は風が流れ込むガラスの穴を呆然と見ていた。頭の中で処理しきれないことばかりで混乱していたが、一旦その全てを忘れて、本来の目的を達成することに務めようとした。

 紅蓮は部屋を見回し、クローゼットの扉が微かに揺れていることに気付いた。急いでそのクローゼットに行き、扉を開く。開くと同時にやつれた男が紅蓮にもたれかかった。

「服部! 無事か?」

 服部を受け止めて、顔をよく見た。かなり衰弱していて、空元気も見せられないようだった。

「紅蓮君……ごめんよ……ごめん……僕が何も喋りさえしなかったら……」

 体に大きな怪我はないように見えたが、右手を見ると爪が全て剥がされて、血まみれになっていた。片手に収まらす、左の手も同様に爪がなくなっていた。おそらく、自分たちのことや、根城としている場所を吐かせるために拷問されたのだろう。

「あいつは……六藤は僕と同じ刑事だ……過去の事件を調べるために資料を探していたら、捕まってしまった……署内だからって油断してたよ……」

「もういい、黙ってろ。すぐに病院に連れて行ってやる」

 紅蓮は服部を背負い、急いで部屋を出た。

 落下した頼人のことが気にかかったが、それは花凛に任せるしかないと割り切った。今は自分の役割を全うすることに集中した。

 エレベーターは滞りなく1階まで降りた。扉が開いたその先には蹂躙された化け猫たちと、喉から血を流す女の死体があった。しかし、そこに杏樹の姿はなかった。

 不穏な気配と嫌な予感がしたが、紅蓮は倒れている化け猫を避けながら入り口に走った。玄関の辺りには血の跡が続いていて、外まで伸びていたが、その先を見ることはなかった。目の前で起きている異常な事態に目を向けざるをえなかったからだ。

 建物の崩壊、爆破、火災から逃げる人々。悲鳴と絶叫と轟音が耳をつんざき、目眩が起きるほどだった。

「この世の終わりか……」

 紅蓮は思わず呟いた。ホテルから見た光景以上に、地上は混沌としていた。

「紅蓮さん! 紅蓮さーん!」

 自分を呼ぶ声で周囲を見回すと、此方に向かってくるバイクの集団を見つけた。

「カミナ!」

 集団の先頭にいたカミナは紅蓮に近づくと、バイクを降りて更に詰め寄った。

「ヤバいです。デカい建物が片っ端から爆破されてます。まるでテロですよ。紅蓮さんが今戦ってる連中の仕業なんですか?」

「ああ、そうだ。これを起こしたボスは仲間がシメに行ってくれてるが、崩壊は止められねえ。おそらく怪我人や逃げ遅れてる人も出ててくる。カミナ、すまねえが、隊員たちまとめて、そういった奴らを助けてやってくれねえか?」

「クリーン隊は世のため人のため、街の笑顔のための隊ですから、お安い御用ですよ。よしお前ら、怪我人探してこい! そっちのお前らは避難場所になりそうなとこを探せ! 急げよ!」

「へい!」

 隊員たちは野太い声を上げてバイクで散っていった。

「紅蓮さんはこれからどうするんです? ってか、その背負ってんの……」

「隊員1人借りるぞ」

「えっ、ええ、どうぞ」

 紅蓮はカミナにそう言ってバイクに跨がり、走り出そうとする隊員を呼び止めた。

「頼みたいことがある」

「どうしたんすか、紅蓮隊長?」

「オレとこのおっさんを乗せて、病院まで向かってほしい」

 隊員は紅蓮の肩から見える服部の顔を見て、察した。

「了解っす。さっ、乗ってください」

「助かる」

 隊員の後ろに服部を座らせて、その後ろに紅蓮が乗った。隊員は逃げる人たちに注意しながら、バイクを走らせた。

 カミナは小さくなっていくバイクを見送った後、隊員の帰りをホテルの前で待っていた。

 被害でどの地域まで出ているのかを知る方法はなかった。安全な場所などもしかしたらないのかもしれないとさえ思った。不安が胸をよぎり落ち着かなくっている最中、近くで悲鳴が聞こえてカミナは顔を上げた。

 そこには必死に逃げる人々がいた。逃げる彼らの少し後ろにも人が数人いたが様子が違った。

 その数人の内の1人が手を翳した。すると、手のひらから小さな火の玉がいくつも放たれて逃げる人々を襲った。よく見ると、背後の集団はもれなく全員、メダルを手にしていた。

「あいつら……何してやがんだ!」

 カミナは木刀を取り出し、暴徒と化した集団に特攻した。大声を上げて突っ込んでくるカミナに彼らは理を射出してきたが、カミナは木刀捌きだけで対処しきり、1人ずつ倒していった。

 全員を倒しきるのに手間も時間も掛からなかった。手応えのなさを不審に思いながら、気絶する暴徒たちを漫然と見下ろした。

「どういうことだ? たぶん悪意ってヤツにやられてんだろうが、どうして急に……それにこのメダルはアイツが持ってたのと同じ……クソッ、色んなことが起きすぎて頭がどうにかなりそうだ」

 不安を消し去るように独り言を呟くと、暴徒の1人が持っていたメダルを拾った。手に伝わる感覚は源石と変わらないことから、自分でも使えると判断した。

 いくつかメダルを回収し、ふと周りを見た。カミナは自分が迂闊だったことを後悔した。

 いつの間にか、四方を暴徒と思わしき連中に取り囲まれていた。数も先程の比ではないほど多いうえに、既に彼らは攻撃の姿勢を取って理を発現してきていた。

 息つく暇もない攻撃の大波がカミナを襲った。幸い、メダルの理を使い攻撃を和らげることは出来たが、止めどなく襲い来る攻撃に反旗を翻す暇を与えられず、徐々に劣勢へと向かわされていた。

 堪え続けていたカミナだったが、飛んできた石礫が手首に当たり、木刀を落としてしまった。木刀を拾う間もなく押し寄せる攻撃にカミナは思わず目を瞑ってしまった。

 怯むカミナの前に空から音もなく老人が降ってきた。老人はカミナを抱えると、凄まじい跳躍をして攻撃を躱した。

 カミナが囲まれていた輪の外に着地すると、事態を飲み込めずに唖然としているカミナを他所に、老人とは思えない体捌きを披露しながらその身一つで暴徒たちをあっという間に鎮めた。

 暴徒を倒しきった老人は何事もなかったかのようにカミナの所に戻ってきて、なんともいえぬいやらしい笑みを浮かべて、腰を抜かしているカミナに手を差し伸ばした。

「オネーチャン、なかなか根性あるネ。おっぱいはもっとあるけど」

 カミナは差し出した手を引っ込めて、目を細めて老人を見た。

「ん? ワタシは悪い人じゃないヨ。良い人、強い人、性欲もビンビン……ああ、これ冗談ヨ。そんな睨まないで」

 不潔な爺だと思ったが、本人の言う通り悪い人間ではないことは身をもって知っていたので、なるべく失礼にならないように端的に感謝を伝えた。

「助けてくれて、ありがとう……ございます……」

「いいのヨ。こっちこそオネーチャンの柔らかい感触を堪能させてくれてありがと……」

「クソジジイ!」

 カミナは腰を上げて、老人の頬を叩こうとした。しかし、老人は体を仰け反らしてそれを躱し、そのまま後ろに宙返りしてカミナの手の及ばない距離にまで逃げた。

「ヤロー……」

「ホホホッ、元気いっぱいだネ。それならもうダイジョーブ。名残惜しいけど、ジジイはやることあるからバイバイだネ」

 老人はウィンクをすると、被害の激しい区域に向かって走っていった。

「待てジジイ! ……チッ、なんなんだよ」

 老人を追おうとは思わなかった。それよりも目の前の問題を解決すべきだった。

 いくら暴徒とはいえ、気絶した彼らを放置するわけにはいかなかった。どこかに運ばなければならないが、運ぶ手段は隊員を使えばなんとかなるだろうが、何処に向かわせるかが問題だった。

「あのー……」

 腕を組んで考え込んでいると、背後から声を掛けられた。振り向くと、小さな女の子がカミナを見上げるようにしてみていた。

「なんだ、迷子か?」

「迷子じゃない! もう本当、得しないな今回の体は……」

 カミナは女の子の物怖じするどころかかなり強気な返しに驚いた。

「そんなことより、そこに倒れてる人って悪意に飲まれてる人でしょ? うちの学校に取り除ける人がいるからさ、連れて行こうよ」

 口ぶりから理を知っていることは分かった。こんな少女に頼るのは些か不安ではあったが、迷っている時間もなかった。

「じゃあ、案内を頼む……ちょうど仲間が戻ってきたから奴らにも運搬は手伝わせよう」

「気が利くねえ。運ぶ場所なんだけど、鳳学園って分かる?」

「紅蓮さんの学校か! それならあたいら全員分かるぞ、おい、お前ら!」

「……なるほど、因縁とも言うべき巡り合わせなのかもね」

 カミナが隊員たちを集めて説明をする中、少女は小さく呟いた。

 六藤が起こした終焉を匂わせる厄災に立ち向かうのは頼人たちだけではなかった。それぞれが自分に出来ること、使命を胸に頼人たちと共に戦っていたのだ。

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