元凶
最上階には部屋が1つ、特別な人間のみが宿泊できるスイートルームがあった。
壁一面がガラス張りで、並び立つもののない高さから彩角市全体を見渡すことが出来た。
近くには高層ビルや大型のアウトレットモール、近年開業されたばかりの真新しい駅など彩角市の急激な開発によって生まれたものたちが詰められ、少し離れた場所を見ると開発に追いつけずに取り残された古い住宅や、整備の終わっていない道路が溢れていた。
その異質なパノラマに見入ることなく、頼人たちは1人の男の背中を睨んだ。
「少ないな、まあ構わないが」
外を眺めていた男は正面を向いた。
「六藤……」
「自分で名乗ってはいなかったが、よく覚えててくれたな。光栄なことだ」
六藤は自分の名前を口走った頼人を目を細めて見つめた。
それが頼人の怒りに触れたのか、頼人は光の剣を発現させて特攻した。
「ちょっと、頼人!」
花凛の制止は間に合わず、頼人は六藤に斬りかかる。脳天から両断せんとする一振りだったが空を切り、直後に六藤が頼人の胸ぐらを掴んで投げ飛ばした。
「気が早い少年だ。そう焦らなくとも後で相手をしてやる。今はそう、時が来るまで話でもしようじゃないか」
「お前と……話すことなんて!」
立ち上がろうとする頼人に向けて、六藤は手のひらをかざした。そこから強烈な突風が吹き、頼人は壁際まで吹き飛ばされた。
「私が話したい気分なんだ。黙って聞いててくれ」
六藤は近くの椅子に座り、ジャケットの内ポケットから緑色のメダルを取り出してこれみよがしに見せてきた。
「それって紅蓮ちゃんとか強盗の連中が持ってたやつ……」
「圧縮人工理源という。源石と違って持ち運びやすく嵩張らない。おまけにこのサイズに見合わず理も潤沢に含んでいる。これが完成し、大量生産が可能になった頃合いにそれが起きた」
六藤はメダルを弄びながら話を続ける。
「彩角市のとある地点から、悪意が放出。その放出は一時的なものだったが、悪意は広範囲に広がった。それにより、各地で僅かながら悪意を患った人間が出始めていき、その凶悪性の片鱗を見せることになる。私も刑事という肩書を持っているものでね、事件性の低いものとはいえ、犯罪が日に日に増えていくことに驚いたものだ。そしてこれは天啓だと直感した。私はその使命を果たすために以前から温めていた計画を実行に移すことにした。はじめに部下である三福に圧縮人工理源を高レベルの悪意罹患者に渡すように命じた。力を手にした罹患者どもを暴れさせることで炙り出したい奴がいたんだが、引っかかったのはお前たちだった。本来の目的とは異なるが、我々の計画の邪魔となる存在ならば排除すべきだ。三福とその手下どもにお前たちを消すように命じたが、それは失敗に終わった。子供だと思って舐めていたのか、それとも単純にあいつでは力不足だったか……まあ、役に立たなかったことに変わりはないか。しかし動かしやすい駒を失ったのも事実。次はどのような手段を使おうかと考えていたら、なんと扱いやすい奴らがいたものだ。力に酔い、自分の正しさを証明しようとする憐れな子供たち……その純粋な心に私の言葉は魅力的だったのだろう。実に従順な手下となってくれた。しかしそれでも、彼らではお前たちを倒すことはできなかった」
「それで自分の代わりに戦ってくれる人がいなくなったから、ようやく出てきたってワケ? ずいぶん腰の重い王様ね」
花凛の皮肉に六藤は耳を貸さなかった。
「当初の予定から大きく外れたが、今こうしてお前たちを消す夢は叶う。しかしここまで生き残ったお前たちに敬意を表して、まずはこの特等席から世界の終幕を観させてやろう!」」
六藤は威勢よく立ち上がり、ガラスを叩いた。それと同時に爆発音が轟き、外の建物が次々と崩壊していった。