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ブルーフレア  作者: 氷見山流々
正義の使者
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トドメ

 怪鳥の姿を見た鈴星は交戦を続ける並木を制止した。

「並木君、小雀ちゃんの……」

 並木は花凛を牽制しつつ、空を見上げた。

「あれは……撤退するしかないようだ」

 花凛と杏樹に近づかれないように攻撃しつつ、並木と鈴星は正門に向かって少しづつ後退していった。

「あー! 逃げる気? まだ決着ついてないでしょ!」

 花凛は大声で抗議し、逃すまいと近づこうとするが、並木たちの苛烈な迎撃に阻まれてしまった。

「くそー、逃がすもんか!」

「花凛さん、お待ち下さいまし」

 強行突破しようとする花凛を、杏樹が羽交い締めにして止めた。

「ちょっと、なんで止めるのよ?」

「そんな無理して特攻していっても、追いつくどころか容易くやられてしまいますわ。それに逃げる素振りをして、わたくしたちを焦らせようとしているのかもしれません。此処は一度、冷静に対応を考えて……」

「そんなこと考えてるうちに本当に逃げられたらどうすんのよ!」

「それはそれで良いではありませんか。一先ずの危機が去ったということですもの。此処で無理をするよりも、次に彼らが襲ってくる時に盤石の状態で戦った方が危険は少ないはずですわ。とにかく、今は様子を見ましょう」

「うぐぐ……」

 杏樹の判断は間違っていないと思いながらも、煮え切らない思いが胸の中にあった。花凛は並木を睨みつけながら、その思いを彼にぶつけた。

「ねえ、あんた! あんた、色々勘違いしてる。あたしたちのこともそうだし、正義ってものも。正義ってのは自分の正しさを証明するものじゃない。自分の行いを正当化するものでもない。本当の正義はね、すごく単純なものなの。それに気付けない癖に正義なんて騙らないでよ!」

 並木の足が止まり、花凛を睨み返してきた。正門に向かって進んできた道を戻ろうとする並木を、鈴星が並木の手を取って制止した。

「並木君、お願いだから我慢して?」

 花凛を睨んでいた目は鈴星に移った。

「我慢? 俺が何に我慢するんだ? あいつが言ったことに? 正義を勘違いしてるって? そんなわけないだろう? 俺は正しい。俺が今までやってきたことは間違ってない。悪い奴は殺す。殺せば悪くなくなる。そう、殺せば……殺せ……ば……?」

 並木の頭の中に花凛の言葉が木霊す。『正義とは自分の正しさを証明するものではない。自分の行いを正当化するものでもない』。その言葉がどういう意味なのか、分からなかった。だからといって、頭の中から消えてもくれなかった。理解する術もなく、答えを知ることも出来ず、全ての思考を邪魔して、その言葉は存在し続けた。

 鈴星は並木の異変を察知した。今まで見たことのない彼の動揺に対し、鈴星が出来たのは彼の震える手を両手で包むことだけだった。

「……行こう」

 鈴星に引かれるようにして、並木は走った。花凛の言葉に苛まれていた並木は前を向けず俯いていて、鈴星の先導だけで足を動かしていた。しかし、その導き手が急に止まったことで、彼の足も不意に止められてしまう。そこで漸く顔を上げることができ、鈴星が止まった原因を知った。

「私の学園を荒らしておいて、タダで帰れると思わないでくださいよ。この生徒会長、伏水日奈美があなた達に天罰を下します!」

 小さな体を目一杯広げて、伏水は正門の前で立ち塞がった。

「センパイ! どうしてこんなとこに……」

 伏水は視線を並木と鈴星から逸らさずに花凛に応えた。

「どうしてもこうしても、侵入者をとっちめるために来たんです。生徒たちの避難も終わりましたからね。さあ、どうやって料理してやりましょう。煮ても焼いても、怒りが治まる気がしませんが!」

 伏水は火の理を並木に向かって射出した。呆然として避けようとしない並木を、鈴星が手を引いて理を回避させた。その勢いのまま、鈴星は正門へと駆け出す。並木もなされるがまま鈴星に付いて行く。

 鈴星は伏水の前に水柱を出し、攻撃を妨害した。その隙に伏水の横を通り、正門を抜ける。そのまま逃げ切りの体勢に入り、振り返ることもなく逃げていく。

「逃しません!」

 伏水は即座に振り返り、片手を振り上げる。彼女の追撃が来ることを予見していたのは何気なく後ろを向いていた並木だけだった。

 並木は条件反射的に、水鉄砲を構えていた。そして、何の躊躇いもなく伏水に目掛けて水弾を放った。放たれた水弾は伏水の胸を捉えて、貫通した。

 胸に空いた穴から血を流し、伏水は力なく倒れた。その姿を見て、並木は我に返った。並木の足取りは確かなものとなり、先導している鈴星を追い越して走っていた。

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