解放
「お願い致します。紐を解いて下さいませんか。そして宜しければですが、何故僕がここにいるのかも説明して頂けませんか?」
僕が出した結論は悔しいながらにも、ただただ丁寧な言葉でお願いをする事だった。というかいくら考えれども選択肢などこれしかなく、僕はこれしか言えなかったのだ。
まあ、例え相手の機嫌を損ない殺されたとしても、自分的には既に一度樹海で死んだつもりだったので、そこまで悲しむこともない。
村の皆には悪いが、どのみち勇者にはなれそうにないので死んだ方がマシかもしれない。もし僕が仮に暗殺者になりミスをして重罪人として国内に名前が知れ渡ったその時の方が村の皆に迷惑をかけてしまうだろうし。
さて、満面の笑みで目の前に立ち塞がっていたお姉さま方は何と言われるのだろう。
彼女達を見てみると目で誰が言うかを話されているようだ。やがて、年は15か16あたりの2つ結びの少女が口を開いた。
「うーん。その様子だと全く覚えて無いのかな。紐の件は、君が暴れたり逃げ出したりしないなら解いてあげるよ!因みに私はルミア・クロッカス。ルミアって呼んでね」
ルミアと名乗った少女は僕の記憶がない様子にガッカリしながらも楽しげな笑顔でそう言った。それに僕の行動次第では紐も解いてくれるようなのでそこは安心した。
「あのルミアさん、確かに僕は樹海で倒れてからの記憶がないのですが、何があったのでしょうか?それと、ここから逃げ出したり暴れたりする気は無いので紐を解いて頂けないでしょか?僕はハルと申します。」
何となく先程と同じことしか言ってない気がするが、ルミアさんが話し出したので考えるのをやめよう。
「名前ならさっき聞いたから知ってるよ。それより、本当に暴れたりしないよね!?逃げ出して挙句の果てに暴れだした君を拘束するの凄く大変だったんだからね!!信じるよ信じるからね!!裏切ったら舌切るよ!?」
最後の方にとんでもない言葉が飛び出してきたのは聞かなかった事にしよう。というか明らかに逃げきれる様には思えないし、ひと悶着あったこと以外は未だに現状が掴めないので逃げる気など毛程もない。
僕がそう伝えるとルミアさんでは無く、黒い布で目隠しをした女性が僕の紐を解いてくれた。
目隠しした女性が迷わず僕の方へ来て簡単に紐を解いてくれたので、布に小さな穴でも空いているのではと思ったのだが、そのような小細工は見当たら無かった。不思議に思ったが、訓練したらこのような事も出来るのかと僕は解釈した。
さて、自由の身になったものも今日はもう遅いということで、話は明日へと持ち越されてしまった。そして僕はこれから暮らすことになる男子寮の空部屋に連れてこられ、する事もなくただベットに寝そべっている。
そう言えばこうしてベットで寝そべっていると、よく母に怒られていたことを思い出す。未だに怒られた理由は分からないが今の僕ではいくら知恵を絞っても答えなど到底でないだろう。
そのような母のやりとりを懐かしいと感じつつも2度とこない時間に悲しみを感じ自分が涙を流していることに気付いた。物心ついてから村を出るまでは1度も泣いたことなどなかったのに、何故村を出てからはこんなにも涙を流してしまうのだろう。そう考えながら僕は眠りに落ちた。
本文が少ない所は少しずつ改善して行く予定です。