フーの恋愛事情
【ギルド本部】
《西部・依頼受付所》
「恋とは何なのだろうと思うのだが、どうだろう」
真顔で固まるオクスと、資料を片手にしたまま無言で目を遠くするクロセール。
二人を停止させるほどの疑問を口にした彼女は、何かマズい事を言ったのだろうかと首を傾げる始末。
して、先に口を開いたのはオクスだった。
「……何を、言っているのだ? お前は」
「先程、受付が問うてきた。あるギルドパーティーがパーティー内で恋愛し、結婚したそうだ。私達はどうなのかと聞かれたのだが、どうだろう?」
「気にするな」
「しかし、前も聞かれた。パーティー内恋愛は崩壊の危機があると聞いた事があるが、どうだろう」
「……パーティーにも、寄るのではないか? 我々の場合は」
「そんな事に現を抜かす暇があるならばリドラ氏の書を読め」
「唯一の男がこれだからな」
オクスはため息をつくと共に、これで良いかとフーに確認を取る。
しかし彼女は未だ納得した様子ではなく、何かが物足りないようだ。
いったい何がとオクスが首を傾げていると、思いついたかのようにクロセールが資料から顔を上げた。
「何だ、恋でもしたいのか」
「そうなのかも知れないと思うのだが、どうだろう」
その一言に、オクスは傾げた首をそのまま回転させるのではないかと思うほどに目を見開いた。
まさか、あのフーがこんな事を言い出すとは思わなかったし、クロセールがこんな事を提案するとも思わなかったのだ。
当然だろう、二人とも恋だの恋愛だのというものには遙か無縁の位置に居るのだから。
尤も、自分も人のことは言えないが。
「恋は素晴らしい物だと聞いている。それをすれば如何なる極地にも立ち向かえるし、どんな傷を負っても死ぬことは出来なくなる。さらに如何なる物でも手に入る、と。だが、その代償に死亡ふらぐなるものを背負うとも聞いているのだが、どうだろう」
「待て、それは誰に聞いた?」
「師匠なのだが、どうだろう」
「……それ以外に何か言っていたか?」
「出来れば女の子に興味を持て、俺得だからな、と」
「そうか。クロセール、少し義手の納期を早めたい」
「そうだな。材料を直接届けに行くしかあるまい」
オクスは義手の指を一本一本的確に鳴らし、クロセールは眼鏡をかけ直す。
二人の殺気溢れる姿を見ながら、フーは一言。
「結局、私の恋はどうなるのだろうと思うのだが、どうだろう」
「「そんな物は今しなくて良い」」
「な、何だか二人とも怖いのだが、どうだろう……」
「「知らん」」
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