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サラとデイジーの日

《第二街・臨時託児所》


「…………サラよ」


「ふふふ、何でしょう?」


「私達はどうして、こんな事をしてるんだろうな」


「仕事だからですわぁ」


デイジーは頬を獣人の子供に引っ張られながら、サラは髪を人間の子供に撫でられながら、そう言葉を交わし合っていた。

ここは第二街にある臨時に建設された託児所である。

どうして彼女達がここに居るかというと、だ。

第二街と第三街を繋ぐ、カードというシステムを覚えているだろうか。

様々な制約はあるが、要するに私生活や前科面で問題のない第三街の住人を第二街へと通過させるシステムである。

この発案などもあって今現在は第二街で獣人の姿を見ることもあった、が。

無論のこと獣人否定派の人間からすれば面白くない物だ。

それが託児所とどう関係してくると言うと、この隣ではスズカゼやゼルを含める第三街の責任者と第二街住まいの貴族達による討論が行われているのである。

要するに第二街住まいの貴族達の意見はこうだ。幾ら素行に問題がないとは言え所詮は獣人。第二街に入れることは危険極まりない、と。

それに叛しスズカゼ達は素行などの調査に力も入れているし、何より未だ問題が起こったことは極少数。対応もしっかり行って確実に減少しているし、第二街への経済面を見ても廃止する理由はない、と。

元より自身の意地で物を言う貴族に、女王の許可という大義、リドラやハドリーという知識人の参入、王城守護部隊隊長という立場のゼルや仮にも伯爵であるスズカゼ、獣人のまとめ役であるジェイドといった武器を持つ彼女達が負けるはずもない。

今はまだ貴族の意地や駄々が通っているが、その内不毛と見なされて討論が打ち切られるのは必須だろう。

さて、話は戻すが要するにこの託児所には隣で討論を行っている者達の子供が預けられているのだ。

本来ならば家で待たせよう物だがーーー……、ここにも討論を行っている者達の思惑が絡んでくる。

もし獣人の子供が人間に傷を負わせよう物なら、それだけでカードシステムを廃止する言い分になる。

だが逆に何も無ければ貴族達の思惑を潰すと共に自身が提示出来るだけの有利条件が増えるのだ。

まぁ、貴族が子供に何か言い仕込めば元よりという話だがーーー……、その点はリドラによって考慮され、聞き分けの無い年頃の子供まで預けられる事になっている。

で、その被害をダイレクトに受ける面々がゼルとスズカゼによって選ばれたデイジーとサラ、というワケだ。

ゼルの言い分は女性団員なら誰でも良いや。

スズカゼの言い分はおっぱい大きい人は母性がありますよね!

明らかに後者がおかしい。


「こら、胸に抱き付くな! 私は母乳など出ないぞ!!」


「うふふ、スズカゼさんが居たら喜びそうな言葉ですわぁ」


脳裏でくっきりと浮かぶ光景を前に、デイジーは思わず身を震わせた。

あの人物なら自身の胸に吸い付くぐらいはやってのけるだろう。

……いやホント、何でこんな人物を護る立場に居るんだろうか。


「……なぁ、サラ。今回の議論はどうなると思う?」


「言わずとも解るでしょう? スズカゼさん達の勝利で終わりますわぁ。結果は目に見えていますもの」


「……それは、そうかも知れないが」


デイジーの視線の先にあったのは人間や獣人の子供達の姿。

それぞれが何の悪意も何の思惑もなく、ただ無邪気に遊んでいる。

ある者は玩具で、ある者は無垢な寝顔で、ある者は何かの話で。

ただただ、種族の垣根などなく楽しんでいる。


「まだ続くんだろうなぁ、この啀み合いは」


「えぇ、スズカゼさんとゼル団長の評価は獣人否定派の中で段々と下がってきていますわぁ。それこそ、暗殺も厭わないと言わんばかりに」


「……馬鹿馬鹿しい! 所詮は自分達の意地だろに!」


「それに固執しなければならないのが貴族ですわよ。そういうデイジーだって、当初は獣人を警戒していたではありませんか」


「そ、それは暴動時に毎回の如く団長と張り合う奴が居るから、と……」


「他の人達も……、皆が皆ではないのでしょうけれど、そうではありませんか? そこにあるのは嫌悪ではなく恐怖。恐怖故の、恐れ」


サラの言葉が理解出来ないデイジーではない。

人々が獣人を恐れるのは報復故に、種族故に、身体能力故に。

恐れるから、近付かない。近付かないから、解ろうとしない。

自分もまた、そうだったから。


「切っ掛けが、要るのかな」


「切っ掛け、ですか」


「私達にとってのスズカゼ殿のように、何か、切っ掛けが……」


そんな風に言葉を詰まらせたデイジーに抱き付いてきたのは、獣人の子供だった。

サラの腰元にもまた、子供が遠慮気味に抱き付いている。

甘えたい盛りの子供だ。二人の若き女性に母性の面影を見たのかも知れない。


「この子達では、駄目でしょうか?」


「……いや」


デイジーは苦笑とも微笑みとも取れない、小さな笑みを見せる。

サラもまた、それと同じくして優しい笑みを頬に浮かべた。

いつか、きっと、人と獣人の元に掛け橋が出来ると信じてーーー……。


「……今の掛け橋はアレなんだけどなぁ」


「色々と台無しですわぁ」



読んでいただきありがとうございました

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