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再び、桜の木のもとで  作者: 白波
第一章 桜の季節
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第一話 物好きの青年

 太平洋上空を浮遊して移動する空中都市“神無島(かんなじま)”。

 行政区分上は、日本国東京都神無島特別市となっているが、数年前に地上とのかかわりを絶ってから独特の政治体制を創り上げ、実質的には一つの独立国となっている。


 さて、いくつもの階層に分かれているこの空中都市の一番上の層は、人類の持てる力すべてをもってして造ったとは思えない風景が広がっている。それは、日本の伝統技術の粋を集めて作られた町であり、中央の神社を中心として時代劇なんかで見るような風景が広がっている。

 それも町並みだけではなく、コメを始めとした農作物も生産していて、別階層で行われている畜産と合わせて重要な食糧の供給地となっている。


 一方で武家屋敷の横に風車が建っていたり、商家の屋根にソーラーパネルがあるなどなかなか不釣り合いな風景も多々見受けられることから、日本の原風景というよりも日本の伝統技術と現代の技術の融合などという見方をする者が圧倒的に多い。


 その一角。第一層の東側に位置する屋敷の中に一人の少女の姿があった。

 この屋敷は、古くに本来の主が亡くなってからこの少女が一人で住み管理していた。


 当初は、屋敷の維持の手伝いをすると名乗り出る者もいたが、少女が拒絶し続けたため、今やその数はかなり少なくなった。


 さて、そんな少女は朝起きて一番に大きくため息をついた。


「まぁだこんなところで意地張ってるのかよ? 晴香」


 しかし、いつまでたってもここに訪れる物好きの青年雨村(あまむら)幸太(こうた)は、今日もひょっこりと侵入してきたようだ。

 彼の黒い髪は短く切りそろえられていて、顔立ちは整っている方で藍色の着流しに身を包んみ、傍らに愛用の刀をふた振り置いていて晴香の枕元に正座していたのだ。


「まったく、髪の手入れぐらいしたらどうだい? かなりぼさぼさじゃないか」

「……いま起きたばかりだからですよ。寝室に侵入しておいてそれですか? というか、いい加減に住居侵入とかで訴えますよ?」


 そう、この部屋は晴香の寝室だ。

 実のところ前の家主の遺言によりこの屋敷は晴香のものとなっているのだが、晴香はいまだに彼女が前の家主から与えられた小さな部屋を使っている。


 彼の言葉は主にそれに対してのことなのだろうが、晴香は今のところかつて前の主が使っていた居室を使うつもりはない。

 僅か3年という年月で周りの街も晴香の体を確実に変化しているが、あの場所だけはあの日のまま維持されていた。


 その時、強い風が吹いて裏庭から桜の花びらが飛んでくる。


「ほらよ。あいつもいつまでの維持張るなって言っているみたいだな」

「そんなことないわよ。お嬢様は私の心の中で生き続けているわ」

「……そうかい」


 幸太は半ばあきれたようにつぶやく。


「まぁ寝室に入ったのはともかくとして今日はちゃんとした目的があってきたから客として迎えてくれや。今日だろ? あいつの命日」

「そうね。覚えていたの?」

「まぁな」


 幸太は複雑な表情を浮かべて裏庭の桜の木を見る。

 そこはかつて、この屋敷の主であった人物が息絶えた場所だ。


「だからさ、今日ぐらいは客人として出迎えてくれてもいいだろ?」


 幸太の言葉を聞いて晴香は小さくため息をつく。


「まったく……だったら、客人らしくちゃんと正門から訪ねてきてほしいものね」

「心配するな。今日はちゃんと正門のカギをこじ開けて入ってきた」

「どこがちゃんとしているのかしら……まぁいいわ。片づけるまで部屋の外で待っていて頂戴」


 そういうと晴香は幸太を部屋の外に押し出して、ふすまを閉める。


 幸太はそのふすまを数分間見つめた後、裏庭の方へ向けて歩いて行った。

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