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星空に浮かぶ恋模様  作者: 江崎涙奈
レセver.
3/6

01.君と私の関係〈前編〉

 


「下りて来い!!」


 下から煩い声が聞こえる。


 せっかくいい気分で寝てたのにと、不機嫌な顔を隠しもせず下を覗けば案の定、居た。


 自分と同じ学年を表す、青で縁取られた校章。それを胸に縫い付けたローブを纏った少年は、仁王立ちになって目を吊り上げていた。


「聞いているのか!?ーーーレティーセルナ=クライヴ!!」


 此方に指を指し叫んでくる。面倒になって顔を引っ込めれば、一層煩くなった。だがそれも授業開始のチャイムが鳴ると、慌てて聞き慣れた捨て台詞を吐いて去っていく。レセは、そろりと顔を出し、グレイの駆けて行く後ろ姿を目で追った。


 よくやるなぁと、ある意味感心しながら、見えなくなった頃、再びごろりと横になり目を閉じる。




 * * *




 グレイス=ファンド・アルデ・ミュー。それが、彼の名前。


 クレメンタイン学園魔術学部3年生、優等生らしい振る舞いで、皆に優しく、容姿も良く、非常に有望株だ。というのが友人から聞いたグレイの話。この話を聞いた時、一体誰の話をしているのか分からず、それ誰の事?と聞いた覚えがある。


 グレイは魔術を得意としたミューの名を受け継ぐ家の一つ、ファンド家の子供で、入学時から変わらず学年2位。学年1位は当然私だけど。


 その所為か、事ある毎に嫌に絡んでくる。戦えーだの。勝負しろーだの。挙句には授業でろーだの。どっかの、誰かさん、そっ……くり……………




 * * *




「…セ、レセ」


 体を揺すられる感覚に目を開けると、見慣れた姿が目に飛び込んでくる。自分とは違って、お母様から受け継いだ金色に輝く髪に、お父様から受け継いだ緑玉を嵌め込んだような瞳。


「んー?…嗚呼、ルセか」


 性格も見た目も違う私たち双子だけれど、私は私で、ルセはルセ。同じものではないのだからある意味よかったのかも知れない。ルセがこのことをどう思ってるかは知らないけれど、私はとても気に入っているのだ。


 でも、波打つ自分の髪とは違って真っ直ぐなルセの髪が偶に羨ましくなるのは、女の子として仕方がないことだと思う。


「はぁ…ほら行くよ」


 ため息混じりに差し伸べられた手に反射的に掴まり体を起こしたが、何故起こされたのかわからない。


「?」


 何でといいたげに小首を傾げているとルセは、やっぱり話聞いてなかったかと深く溜め息ついた。


「授業だよ、ほっといたらどうせ来ないからって先生に呼ぶように頼まれたんだよ」

「別に授業なんて殆ど出てないし、出なくたっていいじゃん…」


 担当の教師から授業課程を習得済みと認められた生徒は授業免除という制度がある。既に4年生までの筆記及び一部実技の授業免除を自分は当然、ルセも貰っているのだ。それなのに、どうやら授業を律義に受けているらしい。


(わかっていることに時間を取られるのって無駄じゃないの?)


 必要のない事をするのは効率が悪いし、それよりも図書館に行って文献の一つでも頭に入れるほうがよっぽど為になる。だから、授業に出る意味がわからない。


「今日は筆記じゃなくて、特別に合同授業!これは出ろって言われただろ」

「2限は筆記で授業免除な筈だよ?なんで…」

「あーもう!合同授業の時間割合わせる為にそっちの筆記が実技になったんだよ!全員参加必須なのに首席がいないっておかしいだろ」


 そんな話聞いたっけと首を傾げていると、お前ねえとルセが飽きれたように首を振る。


「始業式で言ってただろう」

「寝てたもん」

「おい…」


 低い声で唸るルセの話を右から左に聞き流しながら、教練場へと足を運んだ。


「はぁ…先生連れて来ました」


 そう言って腰を折るルセの視線の先には、幼げな顔にツインテールとは似合わない剣を佩いた小さな少女と、纏うローブさえなければ剣士と見紛う程度にはがたいの良い長身の青年がいた。


「ルセ、御苦労様~」


 メラシーがひらひら手を振っている。その横でシリウスがいつもと変わらない厳しい顔で此方を見た。


「御苦労。レセ、早く並びなさい」


 はーいと返事を返し、魔術学部列の先頭に並ぶ。すると、斜め後ろに並んでいた少女から声をかけられた。


「あ、来た来た。よかったー、レセちゃん来ないかと思ったよ」

「エミー、だから言っただろ?絶対、お兄さんが連れて来るって」

「そうだけどさ、今日は何時もと違って遅かったから」


 ちょっと心配したよ、へにゃりと笑うエミーに芽生えかけた申し訳無さも、投げ付けられたグレイの言葉に全て吹っ飛んだ。


「ふんっ、話を何時も聞いてない奴が悪い。そんなに来たくないなら来なかったらいいだろ」


 顔を合わせれば悪態ばかりつくグレイに、苛立ちは兎も角、ここまで言われ続けると不思議で仕方ない。


 何がいけなかったのかなぁと、考えてみても直接的に何かした覚えはない。結局の所、グレイもそう(・・)なのだと。


 そう思って切り捨ててしまえば楽な筈なのに、そうは思えないのはなんで何だろう。


 答えの出ない思考と瞼を重たくする眠気を振り払うように堪らず欠伸を一つ。


「ふぁぁ…ん?そういえば、ローランドは?」

「へ?あー、多分後ろに行ったと思んじゃないかな?」

「最近なんか多いよね」

「まぁ、春、だからな」

「あー、やっぱりそっか」

「「?」」


 納得し合うルーファスとエミーだが、さっぱり意味が分からない。ローランドがどっかに行ったことは分かったしと、興味が失せて視線を前へと戻しかけた時、ルセが手招きをしてるのが見えた。


 なんだろう。駆け足でルセの元へと行けば、メラシーとシリウスも近付いて来た。


「ルセ、レセ。二人は適当に打ち合いやってて~」


 どうせ、真面に相手なんていないんだし今回は見本としてね。そうあっけらかんに言うメラシー。


「メラシー、適当過ぎだ…」


 シリウスはがっくりとすると、それはそうとと、此方を見て言い含めた。


「レセ、負けたら授業免除なしだからな」

「えー…」


 それは困る。ちらりとルセを見れば同様の事を言われた様だ。よし、ここは協定を組もう。


「…ルセ((手抜こうよ))」

「…((おう))」


 密かに手を交わした時、快活なメラシーの合図が響く。


「じゃあ、始め!!」


 一斉に魔素が練られる中、レセは適当な場所に突っ立っていた。


 手首に付けた媒体ではなく、予備の杖状の媒体を手に取る。それを掌でくるくると弄びながら、自分達の戦う範囲を決める為にぐるりと周りを見た。


 別に何の意識も無かったが、順に周囲を巡らした視線がグレイの後ろ姿を認めて止まる。前を向きぴしりと姿勢を正し杖を構える姿と、丁寧に練られた魔素は、いつ見てもとても綺麗なのだ。


 あんな綺麗なのに、なんで中身はああなんだろ。残念だなと肩を落としていると、音もなく目前で木剣を振り落とそうとするルセ。回避する為に半歩後ろに下がり、僅かに体を捻る。


 間一髪で避け、恐怖と興奮でひゅっと喉が鳴る。自然な流れで左手に握った杖を坂向きに持ち替え、姿勢を整えた。


 ルセは振り下ろした勢いを殺さず、刃の向きを変え斜めに振り上げ追撃してくる。だが、木剣を杖の先端で上へと跳ね上げ、体制を低くし懐に入った。


「空きあり!」

「それは、どうかな!」


 無防備に晒された腹を見据えるが、肩に添えられたルセの手から逃れる為背後に回り、練り上げた魔素を魔術に変換した。


「っと、“地よ、かの者を穿て”」


 地面が槍の如く突起しルセを貫こうとしたが、既に飛び退いたルセには擦りもしなかった。


「っておいおい、レセ、後で戻しておけよ」


 にぃと口元が上がる。端から当たるとは思ってはいなかったので、予め用意していた追撃用の魔素を起こす。


「だいじょーぶ!“炎よ、かの者を覆い尽くせ”」



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