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星空に浮かぶ恋模様  作者: 江崎涙奈
vol.1.学友
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00.共通のあらまし

 


 クレメンタイン学園。アルカドス国王都オウス・フィストにある、国一番の学校だ。


 学園には魔術、武術、普通の3つの学部があり、入学時に何処に入るか選ぶ。途中、編入というのも出来なくはないが、それを行う者は極僅かで大抵の者が退学なり卒業までそこで過ごすのが一般である。


 学園に入学して始めの2年間を初等部、次の2年間を中等部、最後の2年間を高等部と3つに分けて呼ばれ、その学ぶ内容も名に準じて高度さを増していく。ただ、身分関係なく入れるといったこともあって、学ぶスピードも、予め備えた知識も異なる子供達に同じ授業をするわけにはいかず、始めの授業でクラス分けが行われる。ここで分けられたクラスは、多少変動はあれど基本的には6年間同じメンバーで過ごすのだ。


 そんな学園に名高きクライヴ家次男のルディーセキア、三女のレティーセルナは、一昨年前入学した。だが、そこで双子だった二人は、魔術学部、武術学部と生まれてから初めて別行動することになった…筈だった。



〈side.ルセ〉


 長期休暇が明け、晴れて今日から中等部に上がる。初等部は家から通う事が出来たが、中等部の間の2年間は寮生活が義務付けられている。集団生活に慣れる為だろうが、隣でふらふらと歩く片割れの最も苦手とするところだ。正直、自分の身が(・・・・)心配でならない。


 兎も角、非常事もしくは長期休暇以外は基本的に寮からの外出及び外泊を禁じられている。部屋は学年学部性別ごと2〜4人に分けられ生活する。


 その為、中等部に上がる始業式の前の数日間は、説明会やら準備やらで忙しかった。


 そろそろ、始業式が始まる。大きな荷物を預け、講堂へと向かっていたのだが。


「ルセ、ルセ!」

「なんだよ」

「あれ、食べれるかな?」


 今時の幼児でも聞かない発言を平然とするのは、自分の片割れの少女であるレセ。


「は?学園の物だから食べたらだめに決ま、」


 当然の事を聞くなと注意すべく、振り向くとさっきまで居た筈のレセの姿がない。また、何かやらかすんじゃないだろうか。嫌な予感しかしない。


 すると、溜息一つつく間もなく、何処からかつんざくような悲鳴が辺りに響いた。


「ああああ、レティーセルナ!」

「あ、おいしー」

「ああ、あな、あなたは何をしているのですか!?」


 木の上に腰掛け林檎を囓るレセに、怒りで顔を真っ赤にした今年から赴任してきた教師の姿があった。これはまずい。


「レセ!」


 何?とでもいいたげな顔をして腰掛けていた枝を足で蹴り、物音たてずに着地する。


「どうしたの?」

「どうしたじゃないだろ!それは、もごっ」

「美味しいよね?」


  口に押し込められたものを思わず咀嚼していると、恐ろしい顔をしたマーセディス子女が唇を震わして此方を指差した。


「ルディーセルナ!貴方もですか!」


 つかつかと詰め寄ってくるマーセディス子女に弁解するべく、口元に嵌められた林檎を抜き取る。


「ちょっと待ってくだ、「あ!」って、レセ!!」


 走り去る元凶(レセ)を捕まえるべく追いかけようと踏み出したが、動かない。そろりと後ろを見れば、自分の腕をがっしりと掴んだマーセディス子女は、鬼の様な形相で睨んでいた。


「逃がしません、よ」


 新年早々に当たってしまった嫌な予感に、咄嗟に浮かべた愛想笑いが引き攣るのを感じた。




〈side.レセ〉


「アース様ー!」


 ふわりと揺れる金の髪に、背筋を伸ばして堂々と歩く小さな背中を見つけ呼び止める。


「む、レセか?」

「はい、これ」


 手元にある中で、一際赤く熟した林檎を差し出した。


「林檎か」

「甘くて美味しいよー」

「そうか」


 もぐもぐ食べるアース様の顔が微かに綻ぶのを見つけて嬉しくなる。好き嫌いはあまり言わない質のアースが、先日甘いものが食べたいとこぼしていたのを聞いたのがきっかけ。偶々ポケットに入っていた飴をあげると、アースは嬉しそうに口に頬張ったのだ。


 頭をくりくり撫でたくなる衝動を我慢しながら、自分も手に持った林檎を頬張る。


 だが一緒に歩き食べしていると、マーセディス子女が此方を見てまた悲鳴をあげた。


「ああああああ、アレスティア様貴方まで!!」


 今食べている林檎みたく顔を真っ赤にするマーセディス子女を、アースと共に不思議そうに眺める。


「もぐもぐ、レセ、何をしたんだ?」

「もぐもぐ、別に?」

「もぐもぐ、そうか」


 マーセディス子女の後ろから少し疲れた顔をしたルセが、顔を覗かせたと思ったら目を釣り上げて怒鳴り始めた。


「レセ!アース様にまでに何させてるんだ!」


 また、ルセが煩い。そんなことよりも、とアースの方に視線を向ける。


「美味しかった?」

「うむ」


 そう満足そうに笑うアースを見ているとぽかぽかと心が温まる。


 あまりの怒りに声を無くして体を震わせていたマーセディス子女は、漸く絞り出した泣きそうな声で訴えた。


「それは、学長が育てた林檎ですよ!!それを、」

「学長が?それはすまんかった」


 マーセディス子女はアースの真っ直ぐな謝罪にぐっと言葉に詰まって、途端おろおろし始める。


「学長には美味しかったと伝えてくれ」

「え、あ、はい!」


 首を傾げながら学長室に走っていくマーセディス子女の姿を見送る。


あの(・・)マーセディス子女を追っ払うなんて、アース様は凄いな)


 ほうと関心していると、相変わらず割を食いっぱなしなルセが後ろで唸っているのに気付いた。


「レ〜セ〜」


 目を据わらせるルセが、溜まりに溜まった不満を爆発させた。


「大体なんだよ!その言葉遣いは!!」

「アース様はいいって言ったもーん」

「そういう問題じゃない!!」


 ぷりぷりと怒るアースの言葉を右から左に流しつつ、何か楽しそうなものを探す。




〈side:ーーー〉


「あ!」

「っ、今度はなんだよ!!」


 駆け出したレセを追い掛けるルセ。それを遠巻きに見ていたローブを纏った少年は厳しい眼差しで睨んだ。


「レティー、セルナ…っ」


 もう何処かに行ってしまった双子を見遣り、舌打ち一つした。そこから無理やり視線を外すように踵を返し、前に進むとすれ違いざまに少女と打つかった。


「きゃっ」

「っと、すまない」

「い、いえ、ぼうっとしていた私も悪いので…」

「そうか、では」

「は、はい、それでは」


 打つかった少女は深々と頭を下げた。ローブの少年が去った後、ゆっくりと伺うように顔を上げ、双子の去った方を見てほうと一息つく。


「学年一位、ルディーセキア=クライヴ…私なんかと、違う、な…」



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