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~テスト勉強は計画的に~解決編①

翌日の昼休み、私は彼女と一緒にお昼を食べることになった。誘ったのは私。


「珍しいね、弥生からお誘いなんて」


と言われたが確かにその通り。私のと彼女は用事もなしに昼食を一緒に取る関係ではないのだから。



昨日、姉の皐月に言われた事を思い出す。


ーー謎なんて、あって無いようなものじゃないーー


確かに『謎』なんてものは、ありはしなかった。始めからおかしかったんだ。


「ちょっと話したいことがあってね、いいかな?」

私がそう言うと無意識か意識的なのか、彼女は眉をぴくりと動かし、私からは少し狼狽している様に見えた。やっぱりアタリなのかな。


「…いいよ、何の話?」

「昨日の現国のテストの話なんだけど…」

っ…、と息を呑む音が聞こえた気がした。が、続ける。


「失礼かもしれないけど、単刀直入に聞くよ?」

「…どうぞ」



「テスト用紙持ってるよね、斎藤さん」



永遠とも…いやこれは誇張しすぎか。2,3分とも思える静寂が流れた。実際は4,5秒なのだけれど。

その間に私は昨日の姉の話を思い出す。




ーーー

「…弥生は中休みの間テスト勉強してたんだよね?何の勉強してたって言ったっけ?」皐月が問う。

「現国だよ」

「もう少し細かく」

細かく?あの時してたのは…


「…漢字の書き取りしてた。『羅生門』の『羅』とか出そうだなーって」

「そう、弥生は漢字の書き取りをしてた。なんで漢字のテストだと思ったの?」


今日の記憶を思い起こす。確か、今日の中休みに…



(ーーー「やよいがさー!知らなかったんだってー!今から勉強して間に合うかなー!?」


これだけ距離が離れているなら近付いて話した方がエネルギー効率が良いのではないだろうかと思ったがそういうわけでも無いらしい。


「間に合うよー!3限でしょー!?書き取りだし余裕だって、余裕ー!」ーーー)



そうだ、斎藤さんがこう言ってたんだ。『書き取りだし、余裕。』だから私は『小テストは漢字のテスト』だと思っていた。その時は情報が少なかったから不思議には思わなかったけれどその時に気付くべきだった。『彼女にはそれを知る術は無い』。



ーーー




長いと感じた静寂も途切れ、斎藤さんが口を開いた。


「なんでそう、思うの?」

歯切れが悪いが、なんのこと?と聞かない辺り、斎藤さんは間違いなく黒だ。私は確信を持つ。


「昨日、私に教えてくれたよね、テストは書き取り問題だって。その情報はどこで知ったの?」

「私、結構交友関係広いんだよ。3組の子から教えてもらったんだよ」


3組の子。これは嘘だ。間違いない。


「それは嘘だよ」

私はきっぱりとそう答える。


「3組の早苗ちゃんって子知ってる?私も名前だけしか聞いたことはないんだけど、その子は茜と仲がいいみたいでね、こんなこと言ってたらしいよ。『もっと教科書読み込めばよかった』って」


こうだったかな?口調は違うかもしれないけどこんな感じのことは言ってたはずだ。


「それがどうかしたの?」

「この発言から斎藤さんはなにが分かる?」

「え?うん…テストの出来が悪かったんじゃない?後悔してるみたい」

「そう、早苗ちゃんは勉強が足りなかったって悔いてるんだよ。で、ここからが大事なんだけど、もしこれが漢字の書き取りのテストだったら、しておくべきなのは教科書を読み込むことよりも『書き取り』をすべきなんだよ。違う?」


沈黙、肯定と捉えよう。


「だから3組では漢字の書き取りの問題は無かったかは分からない。でも、少なくとも問題は漢字の書き取りだけではなかった。文章題が出てたと思うんだ」


そもそも羅生門で文章題を出さない方が珍しいと思う。髪をむしり取った老婆の心境、暇を貰った主人公の心境etc…いくつかなら私でも挙げられる。


斎藤さんがはっ、と思い浮いたように

「そうそう、1組の子からも聞いたんだった。忘れてたよ、1組は確か書き取りだったみたいだよ?」

と言った。

嘘を重ねてる。1組の問題の内容の真偽は確かめようがないが嘘だと分かる。


「そう、1組は書き取りだったんだ…」

「うん、だから…」


「だったらどうして1組と3組では問題が違ったのに、斎藤さんは2組は1組と同じ書き取りの問題だと思ったの?」


反論が無い。


「嘘、なんでしょ」

「………」

「1組と3組では問題が違うんだよ。そうなれば当然うちの2組も違う問題だと考えるのが当然だよね。だってそうしないとカンニング防止の意味が無い」


斎藤さんは俯いたままだ。

大丈夫、私は間違ってない。


「じゃあ斎藤さんはいつ問題を知っていたか、正確には書き取りだと知っていたか、って話になるけど一昨日の5限に斎藤さん、佐久間先生に教えてたらしいね。私は寝てて覚えてないけど『まだ羅生門終わってないです』って、一番後ろの席なのに大声で先生を呼べる勇気はすごいよ、ほんとに」


私にはできない、そう付け加えてもいいけどとりあえず続ける。


「もしその時、既にテストの内容を知ってたらテストの延期要請はしなかったと私は思うんだ。授業が終ってなくても随分とアドバンテージはあるんだから延期するメリットは少ないと思う。書き取りのテストだしね」

「…私がクラスメイトのことを思って授業を進めることを取ったって可能性だってあるじゃない」

「かもね、でももしそんなに友達思いなら、テストの内容をクラスに、少なくとも友達には広めていると思わない?斎藤さんの交友関係が狭いとは言わせないよ」

「弥生にだけは教えてなかった、って言ったらどうする?」


うわぁ、もし本当だったら泣きたい。でも私はそれは違うと言い切れる。


「佐久間先生がテスト用紙を持って教室に入って来た時、少しざわついてたらしいね。『あれ?今日テストなの?』って。私は覚えてないけど。つまりその日にテストをやるとは、ましてやテストの内容なんて誰も知らなかった。つまり」


斎藤さんをチラリと見る、先程とは違い感情を読み取れない。が、それでも続けるしかない。


「斎藤さんがテストの内容を知ったのは一昨日の5限が終わってから昨日の中休みまでの間。私は斎藤さんがテストを手にしたのは5限が終わってから放課後の間だと見てるんだけど、どうかな?」


私は、もう斎藤さんが犯人だと決めてかかっているが、当の本人はと言えば随分とあっけらかんとしている。開き直ったのかな。


「それは、どうしてそう思ったの?」


当然の疑問だ。理由抜きで犯行時刻を指摘されては堪らないだろう。


「これは少し長くなっちゃうんだけど、

まず授業中にテスト用紙を手に入れるのは難しい。クラスメイトの目もあるしね。ってことは休み時間のどれかってことになる。中休みは、時間感覚が曖昧なんだけど私が書き取りを始めたのが中休み始まって15分経った時だった。ってことは斎藤さんはそれより前から窓際にいたって事になる。たぶん中休み中は席から離れてなかったんじゃないかな?そこら辺は分からないけどね。」


斎藤さんが頷く。


「どっちにしても自由だった時間は短い、だから中休みは除外。次に1限の始まる前、ここも違うと思う。だって佐久間先生がいつ学校に来るか分からないのに職員室で物色は危険過ぎる。残るタイミングは2限の前と一昨日の5限の後。確率で言ったら一昨日の方が高い。だってその時、佐久間先生は間違いなく2組のテストを持ってたから。だから2限の前より5限の後の方が確率が高いと思った。8:2くらいでね」


やたらと長く話してしまったがその間斎藤さんは真面目に聞いてくれてたようだ、そして彼女は小さくこう呟いた。


「すごいね、弥生。探偵さんみたいだよ」




「でも、ひとつ言っておきたい。私はテストを盗むつもりじゃなかった」

「それは出来心で、って意味で?」

「ううん、そうじゃないの。どこから話そうか…」



ーーー


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