~テスト勉強は計画的に~
「………嘘」
「弥生に嘘ついてどうすんのよ」
スギ花粉もようやく落ち着いて来た5月のとある日、水無高校1年2組の教室で私八王子弥生は狼狽していた。
「え?昨日?佐久間先生言ってた?てか、その時私いた?」
『佐久間先生』とは我が1年2組の現国の教師であり、某バスケ漫画の安西先生のような風貌、性格をしておりとても温厚。ちなみに本人公認。
「昨日の5限にさっちゃんは絶対に『明日小テストをします。範囲は教科書12〜22P。成績にも関わるので皆さん勉強してきて下さいね。』って言ってたし、弥生はその時間違いなく教室にいた。賭けてもいいよ、どうする?」
やたらと細かな前者の真偽は定かでは無いが後者は間違いないだろう。彼女は私の真後ろの席なのだから。
なお、『さっちゃん』とは勿論、佐久間先生のことだ。まあこの呼び方をするのは彼女だけだが。
いつか言ったかも知れないが私の環境を変えた一人の人物。それは紛れもなく彼女、平田茜のことだ。
やや茶色がかったショートヘア(地毛だそうだ)に毛先はカールしていて瞳も大きく、吸い込まれそうな黒。睫毛もやや長いが俗に言うギャルという雰囲気はまるで無い。贔屓目で見ずとも、可愛い。
その風貌故、生活指導の先生との衝突も多いが、変化が見られない所を見るに先生を言いくるめたか上手く逃げ果せているのだろう。(たぶん後者)成績も…まだテストを経験していないので何とも言えないが、言動や授業態度から察するに悪くはなさそうだ。
友人も多いようで休み時間に彼女の声を聞かない日は無い。非の打ち所がない、と言えば過言かもしれないが彼女には一つ、不思議な所があった。だが私には友人の欠点(とも言える)を吹聴して回る趣味は無いのでその辺りは自身で気付いてもらえれば幸いだ。
「りっちゃーん!昨日さっちゃんテストやるって言ってたよねー!?」
突然茜が叫ぶ
「現国ー?テストやるよー!忘れてたのー!?」
『りっちゃん』こと斎藤律子が窓際の遠い席から答えた。
ほれ見ろと言わんばかりに茜がチラリとこちらを見る。くそう。
「やよいがさー!知らなかったんだってー!今から勉強して間に合うかなー!?」
これだけ距離が離れているなら近付いて話した方がエネルギー効率が良いのではないだろうかと思ったがそういうわけでも無いらしい。
「間に合うよー!3限でしょー!?書き取りだし余裕だって、余裕ー!」
周りの目が気になる…クラス中に『八王子弥生は昨日の5限の現国の授業中は昼寝をしていた』と暗に広めているのではないだろうか。茜を見ると「ほら、お礼」と目で言われている様な気がしたので
「ありがとー!」
とだけ言って現国の教科書を机から取り出した。
幸いにも今は3限が始まる前の休み時間。水無高校には2限と3限の間の休み時間は中休みと呼ばれる少し長めの休み時間がある。中休みは45分間。現在で既に15分が経過。残り30分。
余裕ないじゃん、りっちゃん。
「範囲はどこからだっけ?」
私は茜に尋ねる。
「12〜22P。言うの二回目だよ」
「羅生門ね…」
『羅生門』芥川龍之介 作。
実は私、この物語が余り好きではなかった。…と言えば全国の芥川ファンから猛非難を浴びる事になりそうだが嫌いなものはしょうがない。
死体から髪を毟り取るお婆さんはやっぱり不気味だし、最後に主人公が闇の中に消えてしまうのもなんだか不気味だ。こういう雰囲気がダメなのだろう。多分ね。
(新しく出てきた漢字は……まずは『羅』だよね…あとは『暇』とか…?)
黙々と漢字の書き取りを続ける。漢字の小テストと言えど流石に事前勉強無しで満点を取れるほど私の脳は優秀ではない。
暇暇暇暇……と、漢字書き取りをしていると、ふと、ひとつの疑問が生じた。
「…あのさ」
私が問う。
「なにさ」
茜が答える。
「茜はいいの?勉強しなくて」
私がテストの存在に気付くのが遅れた原因の一つとして茜が勉強していなかった事が挙げられる。もし仮に彼女が朝からテスト勉強をしていれば今頃になって私が必死にノートを埋めている事も無かっただろう。
「私、物覚えいい方だから。『羅生門』くらいなら空で言えるよ?だからへーき」
…それはもう一つの特技になるんじゃなかろうか。『羅生門』丸暗記してる高校生なんて聞いたことないよ。…聞く機会なんてないけれど。
私は「さいですか」
とだけ答えて再び教科書へと目を移した。
それから茜は他のクラスメイトと話しに行き、中休みを堪能していたようだ。休み時間中は先程の会話がクラス中に広まっていた為か、私が他のクラスメイトに遊びに誘われる事は無かった。
心遣いが嬉しいような、恥ずかしいような…
そのおかげか何はともあれテスト勉強はひと段落付いた。ので、一息吐こうと自販機にジュースを買いに行こうとした矢先、チャイムが鳴った。
これは授業開始のチャイムか、はたまた開始10分前に鳴る予鈴のチャイムか。集中してて時間感覚が曖昧だ。時計を確認しようとすると前のドアが開いて佐久間先生が教室に入ってきた。授業開始のチャイムだったようだ。ちくしょう。
上げかけた腰を降ろす。
まあ、一息付くのはテストが終わってからでもいいかと思い直し、日直による起立、号令、着席のルーティーンをこなした。
いつもならこのまま授業が始まるところだが今日の佐久間先生は様子が違った。小テストといえど、真面目な性分なのかいつもに比べて幾分厳かな顔をしている。
そして佐久間先生はその厳かな顔のままで短く、こう宣言した。
「今日はテストを行いません」
ついに書き出してしまった…トーシローの落書きか何かだと思って生暖かく読んで頂けたら幸いです。←
御指摘頂いた改行後の空白は何だかあいぽんからでは適用されない様で…(;ω;)見て見ぬ振りをして下せぇ…
キャラ立てるのって難しいですね、弥生は普段はもっと色んなグループにいるハズなのに……
御粗末な所も多いとは思いますが完結させられたらなーって!
ここまでありがとうございました。