第三話 通う心
今日もまた穏やかな風が青草を揺らしている。
今の季節、日射しも強すぎず、適度な湿度を含んだ風は本当に肌に心地良い。
使い手を目指す訓練がもう少しで実を結びそうになってきたアルフォンスにとっては、時間の許す限りアークの世話を優先していたいというのが本音であったが、流石に毎日とはいかず、今日はセリーナとコンビを組んで羊の放牧に来ていた。
放牧の仕事は一人では大変なので、近隣の家族が共同で担当している。またその日の放牧地までの移動やはぐれる動物を群に戻す作業はなかなかに重労働であり、若い者達にとっては割り当てられる重要な役割の一つであった。
とはいえ小さい頃より繰り返されて身体で覚えた仕事である。二人も慣れた様子で今日の放牧地までたどり着くと、少し高くなった場所まで登り、並んで腰を下ろしていた。
「あー今日も雲が速いなぁ。」
アルフォンスはバタリといつものように寝そべって空を見上げる。
「最近、羊当番、アルと一緒になることが多いね。」
今日もセリーナは花が綻ぶように笑う。
「なんでだと思う?」
「え?」
下からセリーナの目を見上げると少し耳が赤くなる。
「セリーって何かいじめたくなるんだよなぁ。」
思わず本音が出てしまうのはセリーナの前だけだ。
「もうっ。」
ぷいと横を向くのに合わせて、お下げが跳ねた。
アルフォンスはセリーナの膝に置かれた手に躊躇なく自分の手を重ねて、謝った。
「ごめん。」
風がまた二人を優しく撫でていく。
「…セリーってば。」
ありゃ。まだこっちを向いてくれない。でもセリーの耳はさっきより赤い気がする。
「最近、ロニーやカミュが代わってくれるんだよ。邪魔出来ないって。」
本当はカミュは代わりたくなさそうにしてたけど。嘘は言ってない。
「…聞こえないっ。」
くすりと笑って、アルフォンスは再び、空を眺めていた。
真っ白い雲が次々に流れていく。
そうして、また本音がポツリと漏れる。
「風は良いなぁ。自由に走り回れて。」
この感性こそが、人間だけでなくアークにも好かれるアルフォンスの良さであったが、本人は気づいているだろうか。
「僕もアークみたいに風に乗れたらなぁ。世界を見て回るのに。」
「ふふっ、また言ってる。」
とうとうセリーナも笑顔に戻る。
「きっと、もうすぐアルはマーにも認めてもらえるよ。」
「そうかな。」
「うん。絶対。」
横に座っていたセリーナも、アルフォンスと同じように寝そべって空を見上げた。
「雲に乗ってみたいなぁ。」
「えー怖いよー。」
「風の精霊、遊びに来てくれないかなぁ。」
「いつかきっと来てくれるよ。」
もう十四になった今でも、幼い頃と変わらない純粋な気持ち。
アルフォンスの思いをセリーナは笑い飛ばさない。
だから惹かれるんだ。君に。
その時だった。
二人の周りに急に突風が吹いたのは。
稚拙な文章、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
アルはどうやらスキンシップ好きのようです(汗)。
セリーはいつもアルに振り回されてますが、今後ちゃんと活躍する予定。(笑)