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第十六話 リボン

 深緑の1日。

まだ夜の明け切らぬ頃、部屋の外から、「キィー」という聞き慣れた声が聞こえてきて、アルフォンスは訝しく思いながらも寝床を抜け出した。他の家族は気付かなかったようだ。それにしても夜中にアークが一羽で飛んで来るなんて。

しかも自分はアークを連れていない。あのアークはどこから来た?本当にここに来るのか?と、考えている間も無いうちに、白んできた空から現れた一羽が間違い無くアルフォンスをめがけて飛んできて、彼は慌てて左手を伸ばした。


 止まったアークの首には、いつも使う首輪と特殊な綴じ方の伝書とは違い、リボンが結んであって、薄い紙と小さな鍵が結び付けてあった。それを見たアルフォンスは途端に心臓が早鐘を打ち始めるのを感じた。嫌な予感がする。

 リボンごとアークの首から外した。見覚えがある。間違いない。自分の愛している女の子のお下げ髪にいつも揺れていたものなのだから。

 直ぐさま手紙を開きたい気持ちを何とか押さえ込んで、服のポケットに持ち歩いていた木の実の餌をアークに与えた。アーク使いを目指す子供達がまず教えられること、それはアークへの感謝を忘れないことだ。アークはただの使い鳥ではないのだから。あと一歩でアーク使いに手が届く所まで来ているアルフォンスはそれを良く理解していた。

 アークは一息ついたのか、しばらくして「クゥクゥクゥ」と鳴くとまた自ら飛び立って行った。直ぐにアルフォンスは手紙を読み始めた。



 親愛なるアルフォンス。

 直接告げることも叶わないまま、あなたの側を離れなくてはならなくなったことをまず謝ります。本当にごめんなさい。

 驚くわよね?

 二日前にあなたに会えた時にはこうなることは分かってなかったわ。

 でも、今なら分かるの。二人で光の声を聞いたあの日、私達の運命が決まったのです。

 アーク達には風が見えるの。私と同じ精霊様の祝福を受けたあなたがわかる?って聞いてみたら、分かるって言うから、あなたに届けてくれるようにお願いしたのよ。


 私はこれからアーク達も届かない遠い所へ行かなければならないけど、あなたには別の道がある。だから、どうかあなたは皆に告げないで。私のことを想ってくれるのなら、それがあなたが今私の為に出来るただ一つのことです。

 あなたの運命はあなた自身が決めるもの。けれど、あなたが風使いとして自由に風の役目を果たす時、世界に新しい風が吹くのです、

 あなたは、確かに世界を託された一人だから。

あの時伝えられた言葉を思い出して。


そうすれば、また二人の道が交わる未来がくるかも知れない。


 私の記していた日記をあなたに読んで欲しいの。他の人に見せるわけにはいかないから、隠してあるけど、あなたなら見つけられるわ。私のお気に入りのあの木よ。

 日記にもたくさん書いてたから、読んだらバレちゃうし、今更恥ずかしがっても仕方ないわね。

 大好きよ。アルフォンス。

 いつまでも愛してるわ。

 どうか自由に飛んで?

 私の想いはいつもあなたの風と共に。

      セリーナより。



 アルフォンスは呆然と手紙を握り締め、ただそのまま立ち尽くしていた。

 強い風が、肩の辺りまで伸びた彼のブロンドの髪をなびかせていく。手が冷たい。生暖かい風は凍りついた心を必死に溶かそうとしているかのようだった。

 どれくらいの時が経っただろうか。

彼は日が昇る直前の空に、ふわりと飛び上がる。あれからたった数日。彼は、生まれた時からそうしていたかのように風の力を使いこなしていた。

(セリーはいまどこにいる?いや、それよりもまず日記を。)

重い頭を必死に巡らせて考える。

(セリーの好きな木。それほど時間の余裕の無い中で行ける場所にあって、大事な物を置いておくような…。セリーの家の裏の丘の、あの一番大きな…。)

山と草原の狭間の一角。そこに集まる木々の中でも、一番大きな木と会話するように風が通り抜ける場所を、かつてセリーナは好きだと言ったことがあった。

「いつも優しい風が吹いているのよ。」と。彼女の笑顔が浮かび、胸が詰まる。アルフォンスは自分でも気付かぬうちに、もうそこ目掛けて飛び出していた。





 



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