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第十五話 時の塔

 セリーナが風使いであるのは真実であるとマーが頷いた。だが、セリーナの能力を聞き、村長も、さすがのマーも驚いた。

 そなたには真実を話そう、と言って語り始めたマーの話にセリーナは愕然とした。


 この村にはいくつかのしきたりがある。長い歴史の中で、国は何度か名前や姿を変えたがこの村が今もここにひっそりとその存在を保っていられるのは訳があるのだと。

 この世界には時々精霊に力を与えられる者が現れる。その力は強力で、その者の身の振り方で国の均衡は簡単に崩れてきた。

 この里には昔から祝福を受ける者が出たがその者は変化を望まなかったから里は太古の形を保ってきた。

 かつてこの地域を統一した為政者の一族は木の力を使いこなしたと言われている。その一族も、荒れていた世界を収めるために国を作ったのだ。風の里は彼らと約定を交わした。国はこの里に干渉しない代わりに、他の国には絶対に風使いの力を貸すなと。争いを望まなかった村は受け入れた。だが、国は次第に力を付けていった。一方で変化を望まず、風使いが出ない期間もあった村には為すすべが無くてな。他国にも、まれではあるが違う精霊の力を持つ者も現れる。それでも国は村を保護する代わりに、風使いは国に協力する取り決めが出来たのだ。

 そうして我々はアーク使いを提供してきた。国の王族はその血の中に力を宿していてな。まれに力を持つものが生まれている。今の王女も、赤子の時の宣で、木の精霊に祝福を受けていると言われているらしい。そしてこれは極秘だが、王子のひとりにもまた別の力が宿っているらしいのだ。お二方ともまだ幼いがな。されど今は時が悪い。王国クレティリアも内情、外交ともに穏やかではない。国側の中では王国の魔法使いは戦争にも駆り出されることもあると聞く。村の為とはいえ、辛い仕事になるだろう。だが、逆らえば里は簡単に滅ぶかも知れぬ。


だが、そなたはまた違う運命を宿しているようだ。王国の姫と王子が揃って精霊の力を宿していることとも因果があるのかもしれぬ。よく聞きなさい。

この世界には時の塔と呼ばれる場所がある。ただ人には行けぬ場所だ。わしもどこにあるのかを知らない。

昔、時の神がこの世界の終末を予言した時に、長い時の中でその予言を人間が忘れることのないように作られたと言われている。定かではないがな。

この世界の運命を左右する予言は世界の最高機密であり、かつてより研究が重ねられていると聞く。今では神殿が作られ、時の神がいつ気まぐれに御告げを出しても漏らさないように、独立した存在となっておる。未来を予知出来る力はそれ程に大切なのだ。だが予知の能力を持つものはずっと現れなかった。皆が探しておったのだ。そなたはそこに巫女として迎えられるだろう。世界のために必要な役目だ。

明日には迎えが来るだろう、と。


風の精霊の祝福を受けたものは、古より自らを犠牲にし、この里を守ることを選んできた。

時の塔の存在は、この風使いの里と国の約定以上に世界で知る者は少ない。

知れば世界において争いの種となることは避けられぬからだ。

我もまた里の民にその存在を漏らすことはできぬ。そなたはひとりで行かねばならぬが、

そなたを知るものに、そなたの真の行先やその力を告げることはかなわぬ。すまない。

国からはきっと手厚い褒美が村とそなたの家に与えられるだろう。

…風使いから時の巫女が出ることは、本当にこの里にとっては誇らしいことだ。

そなたにはほかに選ぶ選択肢はないが、できれば自ら選んでほしい。

明日にはそなたの家族と里の者に告げよう。

そなたが風の精霊の祝福を受けこの村のために世界に赴いた、と。


マーはゆっくり話し終えた。

その後村長が静かだが豪華な食事と床を用意してくれた。

気丈にふるまう十四の娘に、村長たちは本当に優しく暖かく接してくれた。

「ありがとう、すまない」と何度も何度も繰り返していた。

明け方床を抜け出したセリーナが、庭に出て、アークを一羽呼び寄せて何かを結びつけたことも、

セリーナの亜麻色の長いお下げ髪の水色のリボンが片方無くなっていたことも、

村長は見なかったことにした。

それくらいしかしてやれることは無かったからだ。


村で過ごした最後の晩、セリーナが見た夢。

アルフォンスが風使いとして、まだ見ぬ仲間と一緒に微笑みあっている。

セリーナには幸せな夢だった。

自らの行動が、間違ってはいなかったのだと思うとまた涙が出た。

そして、もう後ろは振り返らないと誓う。


朝、魔法陣を使って現れた神官たちとともに、セリーナは、まだ十四の若い娘は

ただ独りこの村を去ったのだった。その肩に重責を背負って。









 



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