第十二話 決意の朝
目覚めた時、セリーナは泣いた。
沢山泣いた。
泣きながら、夢で視たことを日記に記す。
これまでのことを日記に記しておいて、本当に良かったと思った。
それから、日記とは別に手紙も書く。
家族に当てた物だ。
そして、部屋を片付け、いつものように家族に挨拶をして、朝食を取る。
それから、セリーナは、昨日と同じように、ビシューに声をかけたのだった。
「お兄様、今日、私をマーに合わせて欲しいの。」
セリーナの言葉を聞いて、ビシューは目を丸くした。
「お前…。何を言うつもりだ。」
「昨日、アル達は帰って来たんでしょう?」
「ああ。やはり風使いの件で知っていることはないか聞かれたが、それだけだったと、昨夜父上がジュペ殿から聞いている。」
心の中で大きな溜め息をつきながらも、何食わぬ顔でセリーナは言う。
「お兄様も昨日言ってたじゃない。マーには真実は隠せない。私は私のすべきことをするわ。だからお願い、今から私をマーの所に連れて行って欲しいの。」
「お前…。本当にそれでいいのか。どうなるか解ってないんだろ?詳しくは言えないが、俺は…。」
ビシューは言葉を絞り出すかのように、顔を歪めてセリーナを見る。
「一晩、よく考えた上で出した答えよ。」
家族は皆、今朝方セリーナが泣いていたことに気づいていた。でも、泣きながら何かを書いているセリーナに、誰も声をかけられなかったのだ。
「分かった。」
とうとうビシューは折れた。
「お前がそうすると言うなら、もう何も言わない。父上と母上に事情を話してこよう。それから馬の用意をする。」
「お父様とお母様には、アルが風使いだというのは言わないでね?私が事情を知っているとだけ言って?」
セリーナのすがるような言葉に、ビシューは「解った。」
と言って歩き出した。
「お兄様。ごめんなさい。ありがとう。」
小さな声で呟いた言葉はビシューには聞き取れなかっただろう。それでも、これからマーの所でセリーナが取る行動は、きっとビシューを傷つけるだろうと思うと、言わずにはおれなかった。
セリーナも走り出した。残された時間は短いのだ。すべきことは分かっている。
馬と荷物の用意が出来た時には、もう日も高くなっていた。
「帰るのは明日になるかもしれないな。今晩は向こうのどこかの家に泊めてもらおう。」
とビシューが言った。
セリーナは家族全員に抱きついて、頬にキスをした。
普段控えめな娘が、その様な行動をすることはめったになく、
「あら、大袈裟ね。また明日には帰って来るじゃない。」
と母が笑ったので、セリーナはまた母に抱きつくと、母が髪を撫でてくれた。
大好きな家族。
全員がセリーナに甘かった、優しい家族。
決心が揺らぎそうになるのを感じて、セリーナは母の胸から顔を上げた。
「そろそろ、行くぞ。」兄の声。
セリーナは兄の背中にしがみつく。
故郷の風が、セリーナの背中を押していた。
(もう一度だけ、貴方の顔が見たかった。だけど猶予はないの。)
兄の背中を涙が濡らす。
兄は何も言わなかった。
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