第十一話 嵐の予感
目を閉じれば、小鳥の掛け合いが聞こえてくる。羊達や馬達の鳴き声も聞こえてくる。セリーナは自分の能力について考えていた。
風が運んで来るものは多い。植物の種子や砂や土、それに鳥を運び、動物達や時には人間の背中を押す。それから目に見えないものもある。匂いや音、それに真実。
マーには真実を見る力がある、という事実は、里の者達は皆知っている。アルフォンスとセリーナのように直接、精霊の祝福を受けたのではなく、元々この里には風を読むのに長けた者達が生まれてきて、中でもその力が強かった者がマーの座を引き継いでいく仕組みになっている。かつて、古の時代に風の精霊の祝福を受けた者の血が里の者達の中に受け継がれ、たまにそういう者が生まれてくるのだと言われていた。
セリーナの力はマーとは少し異なっている。言うなれば『夢見の力』。
マーは、起こった事、つまり過去を知り、セリーナは、これから起こる事、つまり未来を視ることが出来る。
セリーナは自分が得た力だったが、その力について総て解っている訳ではなかった。アルフォンスのように練習してきたわけでもないし、まだ二晩しか経っていないのだ。でも、この二日の経験で解ったことがいくつかある。眠っている時に夢のように視える出来事は断片的で、いつ起こる未来かは分からない。見たい事が視えるわけでもないらしい。
そして、一番重要なことは、未来は変わる、変えられる可能性があるということだった。
昨晩の夢は、セリーナが朝、自らビシューに話しかける所から始まっていた。だが、セリーナがそれを知った上で、そのようにビシューに話しかけることをしないと決めれば、少しずつ変わっていくのだ。だが、やはりアルフォンス達が村長とマーに呼ばれるという場面は,夢で視たとおりやってきた。村長の家でマーとアルフォンスが話した内容は変わっていたんだろうか。
アルフォンスは風使いであることをマーに隠せたんだろうか。自信は無かった。
(ええと、昨日は、ビシューお兄様かお父様に、アルが風使いであることを相談したらどうなるのか考えながら眠ったんだったわ。だから、風はそうした時の未来を視せてくれたんだわ。)
セリーナは顔を上げた。今日は、雲を押し流す風が強い。
(自分の願いと、自分のすべき行動を考えながら眠ればいいのよ、きっと。そうしたら、願いを叶える為に何をすべきか分かるんじゃない?)
今晩は嵐が来そうだ。
ずっとずっと遠くの街で、雷鳴が鳴り響いているのがセリーナには聞こえていた。
「今晩は嵐ね。家畜小屋の扉も間違いなく閉じてあげないと。」
そう独りごちた。
自分の願いはただ一つ。
アルフォンスの幸せだ。
アルフォンスが、あんな辛い未来を迎えずに済むためにはどうすればいいのか。
アルフォンスが自由に世界を旅して、自由に空を飛ぶ為に、自分は何をしてあげられるのか。
きっと、風は教えてくれるに違いない。
セリーナは自然に微笑んでいた。
その後、赤面したりコロコロ表情を変えながら、今朝の出来事や、ビシューとの会話の内容を日記に書き足した。
今夜の風はどんな運命を運ぶのだろうか?
今夜吹き荒れる嵐が、セリーナの願いを叶える道を示すことを、だが、それはセリーナにとっては辛い選択になることを、まだセリーナは知らない。
だが、明日にはセリーナだけが知る未来となるのだ。
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