ハジマリのうた
爽やかな青空の音に無骨な機械音がこだましている
雑木林と称されるそこはまるで、バリカンで髪をこそぎ取るように、そこら中の草花が吹っ飛んでいっている。
「ちょ!俺まで巻き込むの話だろ!!」
長身ですらりと伸びた手足には小さな水晶のようなものが埋め込まれている青年は雑木林を駆け回る。
その青年を追い回すのは、機関銃を乱射しながら雑木林を駆け巡るメイドだ。
「当たったらとてもとても痛いでしょうが、死にません」
「ぎゃー!!エリスの鬼ー!!」
「なんとでも、アルティア様も私の着がえ覗いたからおあいこです」
「ああ、エリスってしろな、ぎゃー!!」
アルティアは足を撃たれ、痙攣している。
即効性のスタン・ガトリングガンで追いまわしていたようだ。
「アルティア様、乙女の下着の色をこんなところで公言するなんて不謹慎極まりないです!」
エリスは顔を真っ赤にしながらアルティアを切り株に縛り付けると、機関銃を地面に置いた。
「アルティア様に何されるかわからないので、縛らせてもらいます」
と、素晴らしい笑顔でエリスは言い放つ。
やれやれと、ため息をつきながらアルティアはたちあがった。
切り株はたちあがると同時に地面から引き抜ぬかれてアルティアが切り株をおんぶしているような構図になった。
「さて、飯の準備するか」
「はい、御主人さま!」
先ほどのはいちおう、エリスを覗いたお仕置きではなく狩りという名目で機関銃をぶっ放していたのだ
そこらへんにショック状態で眠っているウサギを拾い集めて、食べる下準備の処理をしつつエリスが用意したくしに刺して火の前にくべていった。
そうやって、ウサギの丸焼きと木のみにしたつづみをうつのもつかの間
「あぶない!」
エリスはとっさにアルティアをお姫様だっこして、その場を一足飛び。
ザク、乾いた音が地面につきささるのが聞こえる、いままでアルティアがいた位置に剣が突き刺さっていたのだ。
「うわ、間一髪だったな・・・そして、これは普通逆なんじゃないかな?」
アルティアはエリスの豊満な胸に抱かれ、その匂いに包まれながら
現状の把握、そしてお姫様だっこされるのも悪くないと邪な考えに頭をフル回転させていた。
「ち、やろうども失敗だ。全員で囲め!」
ガラの悪い男たち、山賊の類だろう
オスマイヤの悲劇から、治安が一気に悪くなっていった影響もあってか辺境の村には山賊の類が多く出没するようになった。
エリスからおろしてもらい、アルティアはようやく地面に足をついた
「俺たちと一緒に来てもらおうか!武器ももたねぇおまけに切り株に縛り付けられたままじゃ抵抗しないのが身のためだぜ!」
山賊たちはげらげらと笑う、そんななかアルティアは何とも情けない恰好で笑いだした。
「ははは、心配してくれてるみたいだけど気にしなくていい、かかってこいや!」
わずかに動く手のひらで山賊を挑発。
それにのった山賊の攻撃を回転しながらかわし自身の自由を縛る縄を切らせた。
そのまま遠心力たっぷりの蹴りを山賊の顎を射止めた、その次の瞬間爆ぜるような音と抉られた地面、小柄な山賊の顔に膝をめり込ませているアルティアの姿が見えた。
「は?」
山賊が驚くのも無理はない、人間の稼働限界を超えた動きが目の前に起こっているのだから。
次々と、山賊を吹き飛ばし、なぎ倒していくアルティア。
エリスの機関銃のそばまで来たら地面に手を当てた。
すると、そこかしこに生えていた雑草が急激に成長し機関銃を絡めとり、エリスのところまで伸びて行った。
「ありがとうございます、ご主人様」
そういって、エリスは機関銃を受け取った。
「あ?玉が入ってねぇ銃でなにしようってんだ?」
山賊たちは身構えながら怒声を投げかける
もちろん、主人が人知を超えた行動をするのを見て、その従者が普通なはずがない。
山賊たちもそんな嫌な予感に背筋を凍らせる。
「これですか?玉ならそこらじゅうにあるじゃないですか」
ガチャリ、銃弾のリンクが見えないが機関銃の装填レバーを思い切りエリスは引いた。
そして、腰に銃身を固定するように構え、わきに挟みこみトリガーを引いた。
パラララララ。
爆ぜるような音とともに山賊どもに見えない弾丸をお見舞いする。
「ぐぎゃー」
「ちょ!エリうわああああ!!」
三下がよくあげるような叫び声とともに山賊たちは吹き飛んでいく。
もちろんアルティアも巻き添えだ。
「これはエリックさまが考案なさったソニックブレットマシンガンです。空気を圧縮した玉に
少量の電気を帯びさせて筋疲労を・・・って、誰も聞いてませんね」
山賊もろとも覗き魔アルティアを成敗したエリスはとてもすがすがしそうな笑顔だ。
エリスは成長した植物の蔓で山賊たちを縛りあげ、アルティアをゆり起した。
しかし、ソニックブレットを山賊たちより浴びたアルティアはなかなか起きない。
エリスはしかたなくアルティアを往復ビンタした、その表情はにこやかな笑顔だ。
4.5発ビンタをくらわせると、アルティアは目を覚ました。
「・・・イタイ。エリス、心なしか顔面がすごく腫れているんだが前後の記憶がないんだ」
「ご主人様、草負けでございます。後でお薬を塗っておきましょう」
そうか、草負けかと腫れているほほを撫でるアルティア。
なんともかわいそうな脳内の青年だ。
そして、自分たちが襲われた理由を解明するために、エリスは一人の山賊の胸ぐらをつかんで
「さて、起きなさい」
ビンタをした。
乾いた音が雑木林に木霊する。
アルティアはほほをさすりながら
「なんかデジャブ」
と、つぶやく
デジャブなどではなく、起こったことが他人に実践されているだけなのだが。
「・・・はっ」
山賊は目を覚ました、鼻血が流れてきているのは二人とも無視した。
「なんで俺たちを狙ったんだ?金ならねーぞ」
「あ?しらねーよお前たち生死問わずつれて来たら親方から報奨が出るって話だったからな」
「親方?だれだそれは」
「教えてやるわけねーだろ!」
「ご主人様、こんなことに時間を使う話ないでおきましょう。情報なら近くの城に腕利きの情報屋がいるのでそのものに聞きましょう」
エリスの提案にアルティアは頷き。
山賊たちをそのまま置いて、テスラ城に向かった。